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Ⅶ 待ち受けていたのは
91. 私にとっては大切な
しおりを挟む「わ、私は悪霊じゃありません!」
「では、お前は誰で、どうやって体を奪う方法を知った?」
「それは、わかりませんが……」
「話にならないな」
何と言われようと、私にはこう答えるよりほかない。本当に私には何もわからないのだから。けれどセーファス様は、私が言いたくなくてはぐらかしていると思っているようだ。
「殿下、ベルネーゼ侯爵令嬢の体を人質にされている以上、口を割らせるのは難しいのではないでしょうか。真実より先に体を取り戻すことを優先してはいかがでしょう」
「だがそれでは……」
セーファス様は、まるで計画が狂うとでも言いたげな様子で渋った。
「わかった。今日のところは諦めよう。だが、お前も早く素直になったほうがいい――とだけは言っておこう」
遠回しな脅しのようにそう言い残して、セーファス様はミュリエル様をエスコートして部屋を出ていった。
「仕事の邪魔をして悪かった。連れていってくれ」
そしてセーファス様と入れ代わる形で、私をここまで連行してきた兵士が入ってくる。
「行くぞ」
再び兵士が私を拘束しようと手を伸ばし――その時、片方の兵士の手が耳にぶつかった。
ピシッと奔るような痛み。その直後、耳からピアスが外れ、飛んだ。
「あっ!」
「ちんたらしないでさっさと歩けよっ」
ピアスを拾おうと身をよじった私の背を、何を勘違いしたのか、ボルトが突き飛ばすような勢いで押した。
バランスを崩して前のめりになる私。けれど私はそれどころではなかった。
シャリ
それは非常に小さな音だった。にもかからわず私の耳にはっきりと届く。転ぶことも厭わず振り向けば、ボルトの足元、その絨毯の上に、花びらが粉々に砕けたピアスがあった。
「あ――」
私は無残な姿になったピアスに釘づけになり、それ以外のすべてが意識の外へと消える。
「ボルト、乱暴は――ミュリ、エルの意思に反する」
「お言葉ですがベイル様、この女、逃げようとしたんです。やむを得ないでしょう」
「そうは見えな――」
「ベイル様。ミュリエルお嬢様を思うなら、この女に情けをかけるのはおやめください。この女は恩をあだでしか返しません」
そんなボルトとベイル様とのやりとりも当然の如く耳に入らなかった。
「ヤ、イヤあああああああ!!!」
壊れてしまった。そう理解した瞬間、私は絶叫した。
いつの間にか掴まれていた両腕を振りほどこうと身をよじりながら、必死に砕けたピアスへと手を伸ばす。
これは私にとってただのピアスではない。
ベイル様に買ってもらった大切な思い出のピアスだ。もう二度ともらえないだろうベイル様からの贈りもの。
絶対に失いたくないそれを失って、私の心の堤防は決壊した。
「ヤダ! ダメ! やめて! 離して、離して、離して!!!」
私は無我夢中で暴れまわった。
「とうとう本性を現したか、悪霊め!」
「くそっ、大人しくしろ! 痛い目に遭いたいのか!」
「おい! そっちを押さえろ!」
「嫌! 離して! 返して! 私の――」
「やむを得ん。落とすぞ」
そして私の意識がプツリと途切れた。
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