まさかのヒロイン!? 本当に私でいいんですか?

つつ

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Ⅸ もう後悔なんてしない

132. 売り子は晒されっ子

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 その翌日。日が昇ったばかりの早朝から、私は肉屋に来ていた。
 私が呆然としている間にまとめられた話では、四つの店を二日ずつ二周、合計十六日間、手伝うことになっていた。償いのための労働、という意味では短いが、絶賛調査中の私にとって、この拘束期間はかなりの痛手だった。

「てめぇは表だ。売り子しろ、売り子」

 できるのは力仕事、雑用仕事だろうと裏に回れば、ご主人によってすぐさま追い出されてしまった。

「あの、私、表に立つわけには」
「表に立たないでどう仕事しようって言うんだい、あんたは」

 おかみさんもまた、あきれたように言う。
 私は困惑した。私が盗みに入った主な店は、今回お手伝いすることになった四店舗だけれど、他の店のものも盗んでいないわけではない。表に立つことでこの店の悪評がたつ可能性もあった。
 それに気づかない肉屋ではないと思うのだけれど……。私は顔をうつむかせながら店先に立った。

「こらっ! 売り子が下向いててどうすんだい! 笑顔で呼び込みすんだよ、笑顔で!」

 厳しい怒声が飛んだ。
 私はおずおずと顔を上げて、人通りが増え始めた通りを見遣る。
 色々な店がたち並び、様々な年齢の人が行き来していた。日本とは違い、景観が意識されることなく物が無造作に置かれた通りは雑多な印象で、呼び込みと言われても、どこに向かって声をかければいいかもわからない。
 背中を押されて一歩前に出たものの、私は立ち尽くすしかなかった。

「さあ、いらっしゃい、いらっしゃい。今日は新鮮な鶏肉が大量入荷だ。お安くするよー! ――ほら、あんたも」

 見かねたのか、おかみさんが見本を見せてくれた。けれど、ほら、と言われてすぐにできるほど私は器用ではない。

「え、え?」
「ほら。いらっしゃい、いらっしゃい!」
「い、いらっしゃい、いらっしゃ……」
「もっと、腹のそこから声出して!」

 即ダメ出しが飛ぶ。私も必至になるしかなかった。

「いらっしゃい! いらっしゃいっ!!」
「怒鳴りゃいいてんじゃないよ! ほら笑顔!」
「はい!」

 それからしばらく、呼び込み、もとい発声練習の時間が続いた。


 最初のお客さんは、常連らしき男性だった。店を通り過ぎたところでピタリと足を止め、いそいそとこちらに寄ってくる。

「なんだ、なんだ? 今日は別嬪さんがいんじゃないか」

 男は私をちらちらと見ながら、奥の方にいるおかみさんに声をかけた。

「ああ、酒屋のせがれか。目ざといね。手は出すんじゃないよ」
「ひでぇな。俺は手は早くねぇって。そんなことより、よろしくな、嬢ちゃん。俺は織物屋の近くにある酒屋の跡取りだ。気が向いたら嫁に来てくれ」
「え、え、あ……よろ――」
「馬鹿たれ。一回りも違うのに嫁いじゃ、この子が可哀想だよ。ああ、そうだ。せっかくだから、あんたの大勢いるお友達にも宣伝しといてくれ。若い娘が今日明日はうち、明後日からは八百屋に出張するってね」
「お、いいね、りょーかい! 俺もしばらく目の保養をさせてもらうよ。よし! じゃあ嬢ちゃん、おすすめを一ブロックくれ!」
「へっ!? あ、は、はい。で、では鶏肉を一ブロックですね」

 答えたもののどうすればいいかわからない。最初に一通りの説明は聞いたはずなのだけれど――ああ、そうだ。まず商品を取ってくるんだった、と思い出し、商品を入れているケースの前にいくも、うろうろと行ったり来たり。そしてようやく目的の鶏肉を取ってきて梱包を始める。たしか、この葉っぱみたいので包んで渡すと聞いたような――。

「違う、そっちじゃなくてあっちのだよ。で、紐で縛って――って、もう、縛れてないじゃないか。わかった、こっちはいいから、あんたはお代を受け取ってきな」

 そんな私を酒屋のせがれはくすくすと楽しげに見ている。待たされて不機嫌になられるよりはいいけれど、ちょっと居心地が悪かった。
 それからお代を受け取り、おかみさんが準備してくれた商品を手渡す。

「あ、ありがとうござ――」
「声が小さい! あと笑顔は!?」
「あ、ありがとうございました!」
「おう、また来るよ」

 そうしてなんとかやりきった。けれど、私は一人接客しただけで疲れ切ってしまった。これでは慣れるまでに、そうとうな時間がかかるだろう。

 
 
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