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Ⅰ ここはどこ? 私は誰?
7. いっそ夢ならよかったのに
しおりを挟む前世の私よ。なぜ金欠になんてなった。なぜ会社を辞めてしまった。なぜこの乙女ゲームをプレイしておかなかった。
まったく同じ展開になるとは思わないけれど、どんな危機が降りかかるのかだけでもわかっていれば生きやすかっただろう。
後悔しようが、自分を呪おうが、もう遅い。
こういうのって、やりこんでた人が来るもんじゃなかったっけ、って思うけれど、来ちゃったものはしかたない。
一応、発売日前からチェックはしてたんだけどね。ネットで予告編を見ていただけの私では、乙女ゲームにありがちな「試練」を乗り越えるには、知識不足すぎるだろう。
なんてことはわかりきっているけれど、一応、わかっている情報は確認しておこうか。
ゲームのスタートは学院の入学から――だったかな。つまりもう始まっている。
攻略対象は、まず、これからやってくるというベイル・エイドリアン伯爵。物静かで知的な雰囲気の青年だ。現王太子の側近で未来の宰相様、なんて言われていたりする。
絵姿的には一番好みだった――けど、未来の宰相キャラって腹黒いパターン多いんだよね。だからあまり期待はしないようにしていた。
で、もちろん王太子も攻略対象だ。セーファス様って言ったかな? 広告塔としての自分、というのをよくわかっていて、人当たりのいい、笑顔がまぶしい御仁だ。
明るさに隠された苦悩が――っていう定番のキャラだと思ってる。
それから代々騎士の家系で、多くの騎士団長を排出しているルウェル侯爵家のクリフォード様。ここ数代、騎士団長が排出されていないとかで、大きな期待を背負わされて苦しんでいる。
功を焦って失敗しかけたところをヒロインが! っていう妄想をよくしたなぁ。寡黙な騎士って好きなんだよね。実際の彼が寡黙かどうかは知らないけれど。
あともう一人、領地のほうにいる金髪の可愛い系の男の子……えっと、名前はなんだったかな? 忘れちゃったけどそんな子もいた。
ショタは興味なかったからね。まったく覚えてないや。
ほかにも隠しキャラがいるみたいで、黒いシルエットがちょいちょい出て来たけど、もちろん、やってないから知らない。攻略情報もまだ上がってきてなかったしね。
ってことで、ひとまずこんな感じか。
うん? 誰か忘れてないかって?
あはは。何のことかな? あはは……はぁ。
わかってるってば。私――ミュリエル・ベルネーゼ侯爵令嬢のことでしょう?
ミュリエル・ベルネーゼ侯爵令嬢っていえば――。
「――ヒロイン、だよなぁ……」
そうなのだ。私はまさかもまさか、まさかのヒロインだった。
何度記憶を探ろうがその事実は変わらない。いっそ夢ならよかったのに。夢だとわかっていれば、多少は楽しめただろう。
「お嬢様? 何かおっしゃいました?」
「い、いえ。何でもないで……ないわ」
「では、お口は閉じていらしてくださいね。お顔のマッサージに入らせていただきます」
「は、はひ……」
絶賛身支度中の私は、なにやら迫力のあるメイドたちに逆らうことなどできず、大人しく、いい子のお返事をした。
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