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Ⅱ 侯爵令嬢ミュリエルです
18. そえられた華のほうが豪華な件について
しおりを挟む「美しいお嬢さん、一曲お相手願えますか」
ウィンクと共に手を差し出したのはセーファス様。さすがは王子様、そのキザったらしい振る舞いがよく似合う。
私は差し出された手にそっと自分の手を乗せた。来る前から誘われるだろうとは思っていたので、心の準備はできている。
「えぇ、よろこんで」
今度は私の他にも何組かの男女がダンスホールにいた。それを確認してほっと息をつく。
「ふふっ、緊張したみたいだね」
「え、えぇ。その……私、てっきり、この夜会でデビューする子が他にもいらっしゃると思っておりまして」
「ベルネーゼ侯爵は知っていたはずだから、君を緊張させないよう黙っていたのかもしれないね」
うん。お父様が知っていたことはさっき踊りながら気づいたよ。顔は引きつってたけど、動じてはなかったからね、お父様。
それから間もなく楽団の人たちによる演奏が始まった。私もすぐに意識を切り替えた――んだけど。
体を密着させたホールドの体勢。高いヒールのせいか、いつもより顔の位置が近い。それを意識した瞬間、一気に緊張がぶり返した。
「それにしても……本当にきれいだ。純白のドレスがよく似合ってる」
踊りながら会話するなんて器用なことを始めたのは一体誰だろうか。私はもういっぱいいっぱいだ。
「ありがとうございます。ですが……キレイに見えるのは、この素晴らしいドレスのおかげです」
「おや。私の言葉を疑うのかい? 悪い子だね」
途端にセーファス様がテンポをアップする。一拍の間に一つだったステップは二つに刻まれ、さらに私をまるで操るかのようにリードして、その場でクルリと回転させた。
「え、わ、きゃっ」
当然のことながら、急な変化についていけなかった私はバランスを崩す。そしてそんな私を満面の笑みを浮かべたセーファス様が、自身の逞しい胸で受け止めた。
一気にパニックに陥る。慌てて離れようとあわあわしていると、そんな私の耳を温い風がくすぐった。
「ふふっ、お仕置きだよ」
「ひぁっ」
背筋がぞくりと震えた。体が硬直する。
い、息、かかってます! 耳にかかってますから!
セーファス様は顔を離すと、私にダンスを思い出させるように腕を引いて、大きめにステップを踏んだ。足はつられて動いた。
ダンスは何事もなかったかのように続いていた。
私の顔が真っ赤なことを除けば。
そして曲が終わる。
「もう一曲どうだい?」
「次は私の番ですよ、セーファス様」
ベイル様が有無を言わせぬ口調で割って入った。
「やれやれ、仕方ないか。今日は特別な日だからね」
「えぇ。一生に一度のミュリエルのデビューの日ですから」
セーファス様は離すまじと握っていた手を緩め、名残惜しげに離す。
「では、踊っていただけますね、ミュリエル」
「はい、よろこんで」
ここで断りなどしたら、一生恨まれそうだ。何せ、一生に一度のデビューの日らしいから。
私は困った困ったと思いつつも、お祝いしてくれるお二人の気持ちを嬉しく感じていた。
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