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Ⅲ ヒロインの宿命?
32. 目標は邪魔しないこと
しおりを挟むそしてやってきた学院。正式名称は王立シャザーレ中核学院。十四歳になる年から十七歳までの四年間通う社交と学問の場だ。平民も通っているが、残念ながら、入り口も教室も全て違う。ごくまれにある合同研究発表会くらいしか、顔を合わせる機会はないそうだ。
クラスの違うセーファス様と別れ、教室を目指して歩く。セーファス様は教室まで送ると言ってくださったんだけど、それこそ目立って仕方ないわけで、遠慮させてもらった。
クラスは男女別なので、残念ながらベイル様とも違う教室だ。とはいえ、貴族の男子とはそこそこ一緒に受ける授業があるし、食堂も共用なので、顔を合わせる機会はそれなりにあるだろう。
「みなさま、ごきげんよう」
廊下を進みながら、当たり障りのないように目が合った生徒がいればそう声をかけ、さっと通り過ぎる。
が、通り過ぎたあとにきゃーという黄色い悲鳴が聞こえていた。ミュリエル様に挨拶されちゃったー、とかテンションの高い声が聞こえているような気がするけれど……うん、きっと気のせい。
私は単なる侯爵家の娘だし、学院には他にも公爵家の御令嬢が二人通われている。私ごときで、こんな…過剰な……ないない。
やや遠い目をしてたどり着いた教室。2-LA。おそらくレディのAクラスという意味だろう。
空いたままの入り口をくぐった瞬間、何かが勢いよくぶつかってきた。
「ミュリエル様! お帰りなさいませ! お待ちしておりましたのよ! 手紙も下さらないなんて薄情ではなくて!?」
ぶつかってきたかと思われた人物はとんでもない美少女で、しかもぎゅっと抱きついてきた。
うん? これ、はしたないとか言われちゃうやつじゃないの?
戸惑いつつも受け止めて、それからさりげなく距離を取――れなかった。結構しっかり抱きしめられてる。
「ご、ごきげんよう。ええと、レイラ様? あの、その……」
レイラ様はハーヴェス侯爵家の御令嬢だ。同じ侯爵家の御令嬢ということで、気兼ねなく付き合える唯一のクラスメイト――らしい。
親友だったから、ってことで、先にベイル様がお話を通してくれていた。
家にも来たいと言っていたみたいなんだけど、私の令嬢教育の関係上ずっとお断りしていたから、会うのは今日が初めてだ。
でも、波打つボリュームたっぷりのブロンドの髪は話に聞いていた通りで、すぐに彼女がレイラ様だとわかった。
「レイラ様、はしたないですわ」
レイラ様に注意をするのは、伯爵家のメリッサさん。レイラ様のお家と懇意で、ミュリエルも仲良くさせてもらってた――らしい。
あれ? ミュリエル、学院に一か月しか通ってなかったはずなんだけど……どういうこと? 友達ちゃんといるじゃん!
これはますます不審に思われないよう気をつけなくちゃだね。
そう、あれから、またちょっとこの乙女ゲームについて思い出していた。
このゲームには、王宮ルートとフィールドルートという二種類のルートがあって、ゲームスタートの段階で選ぶことになっていた。
前者がセーファス様とベイル様を攻略するルート(難易度は上がるが他の二人もしようと思えば攻略できる)で、後者が騎士のクリフォード様と領地にいる(名前を忘れた)可愛い少年を攻略するルート(こっちも難易度は上がるが他の二人も攻略しようと思えばできる)だった。
どちらもヒロインに立ちはだかるのは、政治的社会的問題と恋のライバルだ。
いかに問題解決のために攻略対象を支えられるか、そして恋のライバルたちに足元をすくわれないか、それが攻略の鍵だった。
その解決しなきゃいけない問題がなんだったかわかれば、苦労しないんだろうなと思うんだけど……。
残念ながら、「今、リングドル王国に危機が迫る! ヒロインは国を、愛する者を救えるのか!?」ってキャッチコピーしか明らかにされてなかったんだよね。
でもって、バッドエンドになると、最悪、国が滅んでしまうとか。攻略できなくてもいいけど、それだけは避けなくちゃいけない。
なんて思い出したら、一気に気が重くなったよ。まあ、現実にはヒロインだけじゃなくて、みんなが最悪の事態にならないように一生懸命動くわけだから、よほどのことがなければ国が滅ぶなんてことにはならないだろうけど。
ちなみに、学院に入学するのは王宮ルートだ。
やっぱりかって思ったよ。どうりでセーファス様とベイル様の受けがいいわけだよね。逆にクリフォード様の冷たい対応にも納得だ。
実際にこの立場になってわかった。このルートでクリフォード様の攻略を狙う人はどんだけMなんだって話。絶対にクリフォード様とのベストエンドは無理でしょ。
とはいえ、ヒロインだからといって恋しなきゃいけないことはないはずだし、ここはゲームじゃなくて現実だ。一番やばそうな結果にならないように、とりあえずはセーファス様たちの邪魔をしないようにしようと思う。
やっぱり恋なんて、私にはハードル高いんだもん。
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