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Ⅱ 侯爵令嬢ミュリエルです
20. 晴れ舞台は何かのフラグ…かも
しおりを挟む「すまない、無理をさせてしまったか。飲み物をもらってこよう」
呼吸を乱している私を見て、ベイル様が紳士らしく素早く動いた。
ベイル様は当たり前のようにこうした気遣いをしてくれるけど、誰にでも簡単にできることじゃない。
だからきっとベイル様はモテるのだろう。女の子にとって男の子の見た目は大事だけど、それ以上に気遣いや振る舞い、優しさ、包容力といった点が重要だ。そのどちらの要素も持ち得ているベイル様は優良物件に違いなかった。
今日はそんなベイル様を私が独り占めしてしまっているものだから、多くのご令嬢からの羨ましげな視線が向け続けられている。中には物言いたげそうな目を向けてくるご令嬢も少なからずいたけれど、実際に文句を言ってくる人はいなかった。
ずっとベイル様かお父様が側にいてくれたからね。実に平和だったとも。
って、あれ? 今、私一人じゃん! こういうタイミングで悪役令嬢が来るんだよねー……。
まあ、たぶん大丈夫でしょう。ベイル様は飲み物もらいに行っただけだし、グラスの乗ったトレーを持って歩く給仕はそこら中にいるから、絡まれる暇ができるほど時間はかからないと思うんだ。うん、きっと。
なんて冷静に考えながら周囲を見回して、私は唖然とする。
私の今いる場所から数歩。距離にして五メートルくらいしか離れていない場所で、ベイル様は大勢のご令嬢に囲まれて身動きが取れなくなっていた。
うん。フラグ立ったね。あは。
「そこのあなた」
そう思ったのも束の間、背後から声が掛けられた。
私はあまりのテンプレっぷりにげんなりとしつつ振り向き――予想していなかった人物の登場に思わず目を見開く。
深いワインレッドの豪奢なドレスを身に纏った、三十歳くらいの美しい大人の女性。さっきベイル様が教えてくれた、セーファス様の叔母君だった。
「お、お初お目にかかります。ベルネーゼ侯爵家のミュリエルと申します」
目上の者より先に名乗る。辛うじて覚えていたマナーが頭をよぎり、慌てて挨拶をした。
「ふぅん、あなたがねぇ。あなた、私と話すのは初めてだったわね?」
「ええと、はい、おそらくは」
セーファス様の叔母君は、値踏みをするように頭のてっぺんからつま先までまじまじと見つめ、最後に小さく鼻で笑った。
「そう。メイヴルール公爵夫人と呼びなさい」
「……かしこまりました」
ぞわっと鳥肌が立った。
鼻で笑われたところから不可の印を押されたと考えるべきか、名乗ってもらえたことから一応の合格を得たと考えるべきか。
どちらにせよ、私は逃げ出したくて仕方なかった。
陛下も王妃様もお優しそうな感じだったけれど、彼女は違う。きつめの顔に笑みは浮かんでいるものの、目がまったく笑っていなかった。
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