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Ⅱ 侯爵令嬢ミュリエルです
27. え、何その反応…
しおりを挟む「なんだい、ミュリエル。紹介してほしいのかな?」
アッシュグレーの髪の青年を見ていると、いつの間にか私に視線を戻していたセーファス様が、まさかそんなこと言わないよね的な雰囲気で、意地悪く言う。
え、いや、私が記憶喪失だって知ってるよね? 紹介しない気?
「ええと……私も知っていた方がよろしいのではありませんか? 殿下の護衛をなさっている方なんでしょう?」
予想通りだとしたら名前はわかるけれど、記憶喪失の設定をしている都合上、一度は紹介してもらったほうがいいだろう。
と思ってそう答えると、セーファス様は少しすねた顔をした。
「そこは、私以外に興味ないから、紹介はいらないと答えるところだろう?」
「殿下……」
いやいやいや。私たち、恋人じゃないですよね? 婚約もしてませんよね?
なんでそういう答えを求めるんですか……。ミュリエル、あんたまさかこのノリに付き合ってやってたんじゃないでしょうね?
「冗談だよ、ミュリエル。そんな冷たい目で見ないで。彼はクリフォード。ルウェル侯爵家の次男で騎士をしてる。学院にも通ってるけど、もっぱら私の護衛役としてだね」
セーファス様が紹介すると一歩前に出てくる。だが、その表情が一瞬訝しげになった。それからセーファス様やベイル様をうかがい見て――再び私へと視線を戻す。
あー、クリフォード様は私が記憶喪失だって知らないのかな?
であれば訝しむのも仕方ない。私はにこやかな笑みを浮かべ、まだまだぎこちない動きでカーテシーをする。
「ミュリエル・ベルネーゼです。ごめんなさい、少し記憶を失くしてしまったみたいで、みなさんにもう一度自己紹介していただいてるの」
「……そうか。クリフォード・ルウェルだ」
クリフォードの挨拶は簡潔だった。けれど、向けられた視線はなかなか外されない。
せめて何か喋ってくれ。この沈黙が辛い。
「ええと……」
「クリフォード。ミュリエルが美しいのは知っているけれど、そう不躾に見てはいけないよ。というか、見ないでくれるかな。ミュリエルは私のだからね」
セーファス様の言葉に救われる。けど、ミュリエルは自分のって……冗談とわかっていても心臓に悪い。
さて、ここでの正しい反応は――っと。
「まあ、セーファス様。……光栄ですわ」
真に受けてませんよアピールをして、さっと扇で赤くなった顔を隠す。
なんとなくセーファス様の笑みが黒くなったような気がするけれど気のせいだろう。うん、気のせいにちがいない。
そしてセーファス様の笑みから逃れるようにベイル様へと視線を向ける。ベイルは私と視線が合うとにこりと笑ってくれた。
はぅっ。
あぁ、もう、癒し!
常に笑みを浮かべているセーファス様に対し、ベイル様の笑顔は時々しか見られない。
いや微笑むくらいはいつもしてるけどね。でもにこりって笑うのは本当に時々で、それが一層誠実さを醸し出していて、見れると嬉しくなる。
って、あれ? 私、何考えてるんだろう……。
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