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Ⅴ いざ、帰らん!
57. お土産解禁!
しおりを挟むお兄様のミュリエル溺愛説。一度は誤報かと思われたそれは、どうやら事実だったらしい。
それは領地のお屋敷に帰還し、談話室に場所を移したときのこと。家族団らんとなるはずのその時間は、あっという間に終了を迎えた。
「お父様、お母様、お兄様、お姉様。素敵なお土産ありがとうございました。では、ヘレンはお部屋に戻りますね」
「え?」
談話室に入っておよそ十分。それぞれがヘレンにお土産を渡したところで、ヘレンがすっと立ち上がった。
私は思わず声を上げるが、誰もそんなヘレンを止めようとしない。どころか、それに続くようにお父様とお母様も立ち上がる。
「そうね、ヘレン。お母様と一緒に戻りましょう」
「そうだな。私も留守の間の報告を受けねばならぬし戻るとしよう。ヴィンスたちはまだゆっくりしているといい」
「ええ。あとは二人でゆっくりなさいな。ではまた夕食時にね」
にこやかなお母様の笑みを最後にドアが閉じられる。私は唖然とした。
ええと……どういうこと? そんなにお忙しかったの? にしては、なんだか不自然なような……。
「ミュリエル」
「あ、ご、ごめんなさい、お兄様。お母様たち、お忙しいのでしょうか」
「ふふ。そんなことより、次はミュリエルの番だよ。さあ、この箱を開けてごらん」
「あ、はい。ありがとうございます」
渡された小箱を開ければ、キラリと眩い輝き。中には手のひらサイズのウサギの人形が入っていた。おそらく本物だろう毛皮に、瞳はルビー、耳の部分にダイヤと思しき飾りがついていた。
「か、かわいらしいウサギさんですね」
お値段はまったく可愛らしくないだろうけど。
とはいえ、お兄様が私を思って選んでくれたのだと思えば、値段にかかわらず嬉しいものだ。自然と笑みがこぼれる。
「気に入ってくれた?」
「はい、ありがとうございます」
「じゃあ次ね」
え……次? 次!? こんな高価な物のあとにまだあるの!?
「ここからは開けてあげるね。まずはドレス。これはメリル・パバランのドレスで、こっちのアクセサリーと合わせて――」
お兄様付きの従僕? っていうのかな。その青年がずっと部屋にいるから不思議に思っていた。
すべてはこの瞬間のためだったのだろう。青年は今、せっせと室内に大きな箱を運び込んでいる。そして見せ終ったドレスなどは、王都から付いてきたシンディーや屋敷のメイドたちが談話室の外――おそらく私の部屋へと運んでいった。
その数、一個や二個どころではない。十や二十といっていい勢いで次から次へと運び込まれ、使用人たちはてんてこ舞いだった。
そんな周囲の慌ただしさには目もくれず、お兄様は私に次から次へとドレスやアクセサリーを宛がっては嬉しそうに目を細める。
「やっぱりミュリエルにはこの色が似合うと思ってたんだ――ああ、しまった。先にこっちを渡しておけばよかったね。これは今、王都で大人気の干菓子だよ。軽くて、甘くてとてもおいしいと評判でね。さあ、ミュリエル、口を開けてごらん。ほら、あーん」
服飾品の次はお菓子だった。テーブルの上に積み上げられて、次々と開けられていくお菓子の箱の横では、メイドが素早くお茶を入れ替えている。
「お兄様、自分で食べられ――むぐっ」
もぐもぐもぐ……うん。甘すぎなくておいしい。小麦粉かな? の香ばしい香りと合わさって、いくらでも食べられそうな――って違う!
「どう?」
「お、おいしいです」
じゃなくて。なんであーんなの! あーんじゃないでしょ、お兄様。私たち兄弟でしてよ!
はあ。なんだか疲れたよ、もう……。
「それより、お兄様。こんなにたくさんはいただけませんわ」
「何を言ってるんだい、ミュリエル。一年ぶりだよ、一年ぶり。これでもまだ足りないくらいだ」
だから残りは一緒に買いに行こうね、とにこやかに告げられ、私は顔を引きつらせる。
ホント、どんな理屈してんの、お兄様。一年会ってなかったから一年分って……ないわ。
っていうか、お兄様、まだ働き出したところでしょ。どこにそんなお金あるのよ。我が兄のことながら将来が心配だ……。
その後も次々とお土産を渡され、全ての箱が開いたのは、家族が談話室を出て行ってから一時間以上あとのことだった。
「おっといけない。ミュリエルはそろそろ勉強の時間だったね。一緒に部屋に行こうか」
有無を言わせぬ態度で私を立たせ、何故かしっかりと腰をホールドされながら部屋を出る。
屋敷の人たちからは丁寧にエスコートされているように見えるだろう。けれど、現実は違う。現実は逃げられないようにお兄様に拘束されながら連行されているのだ。
屋敷に着いたの今日なのに。今日くらい休ませてくれたっていいじゃん! なんて思いつつも素直に頷く。
抵抗しないのかって? まさかそんな元気残ってるわけないじゃん。きっとこれもお兄様の策りゃ――……。
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