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バーネット公爵の心の内を聞かされたテオドールは、口を開いた。
「バーネット公爵……。大変申し上げにくいことですが、クラウディア嬢はバーネット公爵のお気持ちに気付いておりません。」
「……っ。ああ、そうだろう。私がそうしてきたのだから。」
「バーネット公爵がクラウディア嬢を訪ねて来られたのも、他の婚約者を決められるのだと思い込んでいました。」
「なっ……。」
言葉を失うバーネット公爵へテオドールは頷いて見せた。
「勿論、そうではないと私は理解しています。」
「……っ、ああ。」
「……バーネット公爵が私が当てにならないと思われるのも無理が無いと思います。貴族らしいことと距離を置いてきました。」
「ああ、そう聞いていた。」
「私は農業や工芸品作りをしながら生活していますが、クラウディア嬢もそれを気に入って私の屋敷でのびのびと暮らしています。」
「クラウディアが?」
「はい。彼女が望む場所で過ごさせたいと、それが私の想いです。彼女が望む限り、私の屋敷で過ごすことを許可いただけないでしょうか。」
バーネット公爵の瞳が揺れた。眉間に皺を寄せ、言葉を絞り出した。
「……つまり、モーズリー公爵殿は、クラウディアがいてもいなくてもどちらでも構わないということだろうか。」
他人が耳にしたら、捻くれた言葉に聞こえるだろう。だが、愛娘を他の男に預ける父親の心情としては娘に無理強いするような男は言語道断だが、娘を求めない男も願い下げなのだ。テオドールは、モーズリー公爵の気持ちが痛いほど伝わってきた。
「……私、私は……。」
言葉にすることは恐ろしかった。だが、自身の気持ちはいつの間にかもう決まっていたことにテオドールはこの時初めて気付いた。
「彼女の気持ちを大切にしたい。……ですが、私の希望を言って良いのであれば。」
テオドールは、バーネット公爵を真っすぐに見据えた。
「クラウディアに私の隣にいてほしい。」
愛する人の父親は、悔しそうな、寂しそうな、複雑な表情でテオドールを見つめた。長い時間を置いて、バーネット公爵は諦めたように頷いた。
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