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第一部
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もう何も見えなくなった真っ暗な窓の外の景色をナスタジアはじっと見ていた。
「妬けるな」
「へ?」
「陛下と離れることがそんなに寂しいか」
「なっ……陛下は畏れ多いけれど父親のような方だったのよ。それで寂しいだけ」
自分と陛下との間には親愛の情があるだけだと説明するがイザードの表情は曇ったままだ。
「それでも、君が困った時に助けてくれていたのだろう。俺は何もできなかったのに」
「馬鹿ね」
何もできなかったなんて言うが、たくさんのことをしてくれていた。それでなくても、今日助け出してくれてイザードの妻にしてくれるだけで幸せという言葉では足りない程満ち足りている。
ナスタジアがそう伝えると、イザードはナスタジアを引き寄せ自分の膝の上に乗せた。ナスタジアは顔を赤らめ、身を捩る。
「ちょ、ちょっと、近いわ」
「今まで散々我慢させられたんだ。これくらい」
ナスタジアの肩に顔を埋めたイザードの声が震えているように感じ、抵抗をやめておずおずとイザードの頭を撫でた。美しい銀髪がさらさらと揺れる。
「こそばゆい」
「ふふ、貴方の髪さらさらで気持ちいいわ。ずっと触っていたいくらい」
「ふっ、それならずっとそうしていてくれ」
イザードが顔を上げ嬉しそうに微笑む。間近にその顔を見るだけで、ナスタジアの鼓動は高鳴る。馬車はナスタジアの母が治める男爵領に差し掛かっていた。
「実家には寄らなくていいのか」
「ええ、もう荷物は全て引き上げているわ。お母さまも新しいお家に行っているでしょう」
この1年はあまりに忙しく怒涛のように過ぎていった。窓の外の男爵領をぼんやりと見つめ、ナスタジアは小さく息を吐いた。そんなナスタジアの思いを察したかのように、イザードは彼女を抱き締める腕により力を込めた。
「……後悔しているんだろう?」
「あなたにはお見通しね」
ナスタジアは悲しそうに微笑んだ。
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