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第二部
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少し時間は遡り、隣国の王宮にて。
忙しい公務を終え、王太子イザードは足早にナスタジアの部屋へ向かっていた。ナスタジアとの婚姻の為、いつもの公務の他にも様々な調整や根回しが重なりナスタジアとの時間はあまり多くない。貴重な時間を少しでも長く伸ばそうとイザードは急いでいた。
漸くナスタジアの部屋の前に辿り着くとイザードは眉間に皺を寄せた。いつもであれば、この時間にイザードが来訪することは分かっているためナスタジアは人払いをしてイザードを待ってくれてる。だがナスタジアの部屋からは妙に騒がしい声が漏れていた。
「おい、誰か来ているのか」
「い、いえ、来訪者はおりません」
護衛に尋ねると彼もまたナスタジアの部屋からの声に戸惑っていたようだが、ナスタジアの楽し気な声から中断させてまで声を掛けるのは気が咎めたらしい。またこの騒々しい声はほんの数分前から急に聞こえたと言う。
「ナスタジア」
「イザード様?どうぞ」
扉の前から声を掛けるといつもより幾分高い声が返ってくる。逸る気持ちを抑えながらイザードが扉を開けると、そこには想像もしなかった光景が広がっていた。
「イザード様!エラが!エラが来てくれたのです!」
「うう……苦しい……イザード様、義姉を何とかしてくださいませ……」
ナスタジアはここにいる筈の無い義妹をぎゅうぎゅうに抱き締め、満面の笑みを浮かべていた。
「……色々と尋ねたいことはあるが、まずは離してやったらどうだ?このままではエラ嬢が窒息してしまう」
「はっ!エラ、ごめんなさい!つい我を忘れてしまって……」
「はぁ……はぁ……いえ、お義姉さま……相変わらずお元気そうで安心しました」
エラが深呼吸しているとナスタジアは甲斐甲斐しく義妹の髪や服装を整えてやっている。彼女の様子に苦笑いを浮かべるイザードだが、初めて見る婚約者の生き生きとした姿に嬉しさも覚えた。
「エラ嬢、ここにはどうやって?」
「転移魔法で参りました」
「そうなの!急にエラが現れたから驚いたわ!私、エラに会いたい想いが強すぎてとうとう幻覚を見たのかと思ったの」
そう言ってナスタジアはまたエラをぎゅっと抱き締めた。エラは諦めたように「お義姉さま……力加減してください」と呟いた。興奮しているナスタジアを余所にイザードは訝しげな瞳でエラを見つめた。
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