王太子は妃に二度逃げられる

たまこ

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本編

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 二日後、フランチェスカを乗せた馬車はサルヴァトーリ公爵家の領主邸に辿り着いた。公爵領の領主邸とは言え、国境を守る辺境にあるため一般的な屋敷では無く城塞のような形を取っている。

「う~~ん、腰が爆発しそうです」

 フランチェスカが護衛騎士の手を借りて馬車から降りていると先に降りていたサラが背伸びをしながらそう言った。

「サラ、お疲れ様」

「お嬢様こそ、お疲れですよね」

「そうねぇ、少し」

「ロレンツォ様にお会いする前に入浴しましょう。マッサージしますよ」

「ありがとう、サラ。楽しみだわ」

 フランチェスカとサラがそんな会話を交わしていると、公爵領の使用人たちが寄って来て挨拶の後に荷物を運びこんでくれる。フランチェスカの父の代わりに公爵領を治めているロレンツォは多忙なので恐らく夕食時に顔を合わせることになるだろうと踏んだフランチェスカだったが、すごい勢いで彼女に近付く人影が見えた。


「フランチェスカ!」

「きゃ!……ロレンツォお兄様?」

 ロレンツォは挨拶もせずフランチェスカをきつく抱き締めた。フランチェスカは身を捩るが逞しい体格のロレンツォはびくともしない。ここサルヴァトーリ公爵領は辺境に位置しており国防の要となっている。その為騎士たちへの指揮監督もロレンツォが勤めており、騎士としての訓練も日々行っているという。サルヴァトーリ公爵の従弟にあたる彼は、フランチェスカの十ほど年上であり彼女が幼い頃から兄のような存在だった。

「お兄様、そろそろ離して下さるかしら?」

「ああ、すまない。久しぶりの再会が嬉しくて、つい」

 ロレンツォは照れ笑いを浮かべ、「フランチェスカ、おかえり」と歓迎してくれる。

「ただいま戻りましたわ」

「少し見ない内に、随分淑女らしくなったなぁ」

「当たり前です」

 フランチェスカが拗ねたようにそう言うと、ロレンツォは嬉しそうに頷く。懐かしい顔を見ていると王都を離れられたことが実感でき、フランチェスカは漸くほっと息を吐いた。ロレンツォはまたすぐ仕事に戻らなくてはならないが、その前に砦の中を案内したいと言うのでフランチェスカはロレンツォの後を追った。


「随分……様変わりしていますね」

「ああ、実は……」

 フランチェスカが幼い頃はこの領主邸へよく訪れていたが、その後はロレンツォが王都に来た時に会うだけだった。フランチェスカの記憶にある景色とは様子が違っている。

 目を丸くしているフランチェスカを見てロレンツォはその理由を話し始めた。

 数年前、隣の領地で大きな自然災害が起こった。サルヴァトーリ公爵領からも物資を支援し、人材も派遣したという。だが復旧作業は難航し、物資は全く足りないようだった。結局ロレンツォはフランチェスカの父を頼り、災害時には領地への支援を国が行う法案を通した。そのおかげで隣の領地は時間は掛かったものの復旧作業を再開させることができた。


「あの時思ったんだ。国から支援を受けられるとはいえ、災害時には領内での備蓄や避難所が必要だと。それで一階はホールのような形にして領民が避難できる形に、二階以上の部屋を備蓄庫にリフォームしたんだ」

 辺境に客人が来ることは殆ど無いしね、とロレンツォは笑った。どうしても要人の客が来た時の為にロレンツォのポケットマネーで近くに高級宿も建てており、不都合は無いようだ。一階はホールが殆どを占めており、奥に食堂と厨房がある。二階を回ると以前あった部屋は備蓄庫に代わっており、長持ちする食品や災害時の生活用品が所狭しと並んでいた。備蓄庫はまだ広さが足りず、外にも備蓄庫を建設中だと説明を受け、窓から覗くと忙しそうに資材を運ぶ職人たちの姿が見えた。


「……だから、フランチェスカをきちんとおもてなしできるような場所じゃないんだ。申し訳ない」

 ロレンツォは頭を下げ、フランチェスカが滞在する部屋を紹介した。
 


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