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本編
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「本当によろしかったのですか?」
ロレンツォが仕事に戻り使用人たちが荷物を運びこんだ後、フランチェスカは入浴しサラからマッサージを受けていた。二人きりとなった部屋でサラはしつこく尋ねた。
「勿論よ」
フランチェスカはにっこりと笑った。フランチェスカの滞在する部屋は広々としていた。入ってすぐの位置には執務をしたり客人を対応できる部屋、その奥に寝室や浴室、更にその奥は侍女用の部屋まで備え付けられていた。
「まさかロレンツォ様の私室と同じフロアなんて」
「別に部屋が繋がっている訳じゃないわ。それに外には騎士たちもいるじゃない」
サラが眉間に皺を寄せるのも無理のない話だ。
通常、高位貴族の屋敷では客室が別棟に準備されていることが殆どだ。しかし公爵邸は災害対策の為、本邸の最上階以外は備蓄庫と避難場所としてリフォームされている。そして最上階にだけ家主であるロレンツォの部屋や執務室、応接室などがあり、フランチェスカが滞在する客室も同じ最上階にあった。客室が別棟ではなく本邸の中、しかも家主の私室と同じフロアに客室があるなんて本来なら有り得ない。
ロレンツォは何度も謝っていた。現在この城塞にはここしか客室は無いので、宿に泊まっても良いのだと提案した。サラが嫌がっていることにも気付いていたがフランチェスカはここに滞在すると決めてしまった。
フランチェスカの醜聞になるのではないか―――そう心配するサラへフランチェスカは「何かあればサラが助けてくれるんでしょう?」と笑った。サラはフランチェスカの専属侍女だが、護衛も兼ねている。サラは眉間に皺を寄せ「うぅ……何かあれば私が真っ先に参ります」と唸りながら強い口調で言った。
「ですが……お嬢様、やはり心配です」
「サラも心配性ね。ロレンツォお兄様がわたくしに何かするようなことは無くってよ」
「ですが」
「先程返した護衛騎士たちがお父様にも状況を説明してくれるわ」
「それはそうですが……」
フランチェスカと共に公爵領に来た護衛騎士たちは数名だけが残り、後の者は王都の公爵家へと戻ることになっていた。彼らは見たままを公爵へ報告するだろう。万が一公爵が問題だと判断すればその時にまた検討すればよいだけだ。
「それにサラが守ってくれるんでしょう」
フランチェスカが揶揄うようにそう言うと、サラは「うぅ」と苦しそうな声を漏らした。
「はぁ……お嬢様は警戒心と言うものが全く足りません。どうせアーネスト殿下が同じフロアのお部屋でもお許しになるんでしょう?」
「なっ!」
「……流石にそこの警戒心はあるようで安心致しました」
その後も続くサラの小言を聞きながら、フランチェスカは小さく息を吐いた。うつ伏せになっているおかげで、赤く染まった顔がサラに見えないことに感謝した。どうにか振り払おうとしてもやっぱりフランチェスカの頭にはアーネストの顔が浮かんでくる。彼が近くにいると一瞬でも想像しただけで胸が苦しくなってしまう。早く、こちらの穏やかな生活に慣れてしまわなければ。長く長く、苦しいだけの初恋を忘れるためにここに来たのだから。
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