王太子は妃に二度逃げられる

たまこ

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本編

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「サラ、控えなさい」

 いつもよりずっと厳しい声でフランチェスカがぴしゃりと告げると玄関ホールは静まり返った。

「……お嬢様」

「今すぐ部屋に戻りなさい」

「ですが……っ」

 フランチェスカは必死の形相で言い募るサラを一瞥した後で振り返り、連れていた自身の護衛騎士達に合図をした。サラはぐっと息を呑み込むと抵抗することなく、彼らと共にその場を後にした。侍女の背中を見送ったフランチェスカはアーネストに向き直った。背筋を真っ直ぐと伸ばした彼女の凛とした声にその場にいる全員が耳を傾けていた。

「アーネスト王太子殿下、この度はわたくしの侍女が不敬な態度を取り大変申し訳ありません。お詫びのしようもございません。彼女の処分は殿下のご意向に全て従います」

「……フランチェスカ。私はこんなことで君の侍女を咎めたりなどしない」

「ですが」

 アーネストは悲しそうな眼差しでフランチェスカを見つめた。フランチェスカが言葉を切った瞬間、周りにいた使用人達がざわりとした。フランチェスカが辺りに視線を巡らせると見慣れた顔が現れた。

「アーネスト王太子殿下。お初にお目に掛かります。サルヴァトーリ公爵領の領主代理を務めております。ロレンツォ=サルヴァトーリと申します」

 ロレンツォの後ろには彼の執事が控えていた。サラの暴走を見た使用人たちが執事に助けを求めたのだろう。執事は使用人だけでは解決できない事態と判断しロレンツォを呼んできた、という訳だ。

 ロレンツォは王族への礼を取った。それを受けたアーネストは深く頷き口を開いた。

「ああ、貴殿の活躍は王都まで届いている。今後ともデリンラード国の繁栄のため力を貸して欲しい」

「勿体なきお言葉、ありがとうございます。……ところで今しがた、当家の使用人が殿下に無礼を働いたとのこと、心よりお詫び申し上げます」

「構わない」

 アーネストは頭を振った後で言葉を続けた。

「フランチェスカとは長い付き合いだ。サラとも顔見知りであるし、フランチェスカの大事な侍女をこんな些細なことで咎めたりなどしない」

 アーネストの言葉にフランチェスカが反論する前にロレンツォが答えた。

「殿下。寛大なお言葉、深く感謝いたします」

「私も先ぶれも無く勝手に来てしまい悪かった。……二人はこれから出掛けるところだったのだろう」

「ああ、それが」

 ロレンツォは困ったように眉尻を下げた。

「実は急な仕事が入ってしまい行けなくなってしまったのです」

 フランチェスカは目を丸くした。急な仕事が入ったなど聞いていない。ロレンツォが何を言いたいのか見当も付かずフランチェスカは黙ったままでいるしか無かった。ロレンツォは美しく笑いながら言葉を続けた。

「殿下。代わりに、と言うのは大変不躾なのですが……お時間ありましたらどうかフランチェスカにお付き合いいただけませんか?」

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