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本編
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足音を立てて廊下を突き進んでいく。王都のサルヴァトーリ公爵家では規律が厳しく、平民である自分には息苦しい部分があった。それこそ足音を立てて廊下なんて歩いていたら侍女長からきつく叱責されていただろう。だが、ここでは違う。サルヴァトーリ公爵家の領主邸ではあるが、辺境の地という土地柄のせいか規律が緩い部分があった。多少粗野な面があってもあまり目立たず有難かった。
許さない。
許さない。
許さない。
サラは物心ついた頃には親はおらず孤児院で生活していた。孤児院の財政状況は貧乏で生活は苦しかった。そして孤児院出身の者の就職先は限られていた。運動神経の良かったサラは街の自警団に入ることになった。男ばかりの職場で一通りいびりも受けたが、サラはくだらない、と相手にしなかった。その態度がまた男たちを苛立たせた。
自警団なんてもう辞めてしまおうか。サラは別に街を守りたいだとかそんな正義心は微塵も持っていなかった。働く場所がここしかなかった、それだけだ。そんな時、フランチェスカの亡き母と出逢った。お忍びで街に出ていた彼女が見知らぬ男に付きまとわれていたのをサラが助けたのだ。彼女はそれはそれは感謝してくれ、フランチェスカの護衛を兼ねた侍女見習いとしてサラは雇ってもらうこととなった。
許さない。
許さない。
許さない。
フランチェスカはサラにとって誰よりも大切なお嬢様であり、主だ。フランチェスカの母が亡き今、サラが唯一命を掛けて守りたいと思える人だ。そんな自分の命より大事な人を長年にわたって酷く傷付けてきたクソガキを許せる人間がいるだろうか。
許せない。
許せない。
許せない。
フランチェスカから下がるように命じられた後、サラはそのまま裏庭の方に回った。熱すぎる頭を冷やしたかった。
アーネストと同じくらい、自分を許せなかった。フランチェスカはサラの前で一度も泣くことも怒ることもしなかった。フランチェスカが一言でもアーネストへの怒りを、悲しみを口にしたらサラはアーネストの命を狙ったかもしれない。それがどれほど無謀なことは勿論分かっている。だが、それを強行することを危惧してフランチェスカはサラに胸の内を話せなかったのではないだろうか。
感情表現が豊かなサラが好きだとフランチェスカはよく言っていた。だが、サラがアーネストへの怒りを露わにするせいでフランチェスカは自分の気持ちを飲み込んでしまったのではないだろうか。
「……っく」
堪え切れず溢れ出した涙がぼたりぼたりと地面へと落ちていく。ぐい、と強引に服の袖で拭うがそれが止まることは無かった。
大事な人が傷つけられることは身を切られることよりずっと辛く上手く息ができなかった。
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