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いっしょに暮らそう!
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しおりを挟む外からの明るい日差しで目が覚める。体が上手く動かせず、身動ぎしながら少しずつ意識が浮上していく。目を開けるとそこには。
「おはよう、サチ。ちゃんとここにいるな」
私の推し、キジトラ猫のジルが目の前で不敵そうにニヤリと笑っていた。私はジルの腕の中にいた。
「ひゃっ…」
大声を上げそうになり、慌てて自分の手で口を塞ぐ。その様子を面白そうに見ながら、私の頭を撫でる。ジルってこんなにいじめっ子キャラだったかなぁ。『ねこダリ』では、そっけない印象だったけど、こんなグイグイくるタイプではなかった。昨日からずっとドキドキしっぱなしだ。
「俺は朝食の準備をしてくるから、もう少し休んでおけ」
「わ、私も手伝わせて」
「サチは怪我人だから駄目だ。治ってから、手伝ってくれよ。頼りにしてるからな」
ここに来てから何にも役に立っていないことで焦る気持ちを察したように、優しく子どもに言い聞かせるように、ジルは伝えてくれた。ジルの優しさを噛み締めていた私は、ジルがハッとした顔で自身の右足を凝視していたことに気付かなかった。
ここは『ねこダリ』の世界なので、食事も本当の猫仕様ではなく、人間が食べているようなメニューとなっている。ゲームの中で、猫はガッツリ、リアルな猫なのだが、ここら辺はご都合主義だ。脚本家のインタビューの中で「食事シーンが魚のみ、とか、キャットフードが出てくる乙女ゲームなんて許さない!」と話していたのを思い出す。これを読んだ時は「ふーん」としか思っていなかったけど、今はこの設定に助けられている。いくら体が猫になったからって、キャットフードは抵抗がある。
ジルが作った朝食は、ふわふわパン、野菜たっぷりのスープ、トロトロのオムレツだった。湯気がたち、良い匂いがしてくる。三匹でテーブルを囲む。
「サチ、本調子じゃないんだから、よく噛んで、ゆっくり食べるんだぞ」
「ふふふ、ジル、おかあさんみたい」
テトが可笑しそうに笑った。私も釣られて笑ってしまう。ジルは複雑そうな顔をしていた。こんな風に一緒に食べる時間がとても幸せだと感じる。
食事後、ジルが出掛ける準備を始める。
「ジル、きょうも、おやまのじゅんかいいくの?だったらテトもいく!」
「いや、今日は本部に行ってくるから、テトはサチといてほしい」
「じゃあ、サチとさかなつりいこうかな?あとは、はたけのおやさいも…」
「テト、サチは怪我をしているから、今日はずっと家にいてほしい」
「え…でも、サチのけが、なおってるよ!ほら」
ジルは困ったように顔を歪めている。私は自分の体を見回すと、確かに怪我は治っている。あんなに酷かったのに。少なくとも一晩で治るような怪我ではない。この回復力の理由を私は知っている。そしてジルも気付いているのかもしれない。
「テト、見た目が治っていても、実はまだ治っていないこともあるんだ。頼むから二匹とも今日は出掛けないでほしい。心配なんだ」
ジルの必死さにテトも驚いたようだった。
「わかったよ、ぼくがサチをまもるから!しんぱいしないで」
「ありがとう、出来る限り急いで帰るから」
心配そうにしながら、ジルは慌てて出発していった。
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