【完結】堅物監察官は、転生聖女に振り回される。

たまこ

文字の大きさ
60 / 61

58

しおりを挟む


「ロナルド様。こちら今回応募してきた魔術師の資料です。」


 どさりと置かれた膨大な資料を見て、ロナルドは小さく溜息をついた。サイモン第二王子の尽力のお陰で、革命派の力は縮小されている。行き場の無くなった魔術師たちが魔術協会へ続々と応募してくるのだ。紹介状を書いているのは勿論サイモン第二王子である。


「こうやって見ると、この国には考えていた以上に魔術師がいたのだと気付かされますね。」


 部下の言葉にロナルドは頷いた。魔術協会に応募しているのは元革命派の者だけではない。聖女アンの活躍を知った、フリーで魔術師をしていた者たちも国のために力になりたいと応募してきているのだ。これは魔術協会に限ったことではない。神官見習いや治療士の応募も軒並み増えているという。魔術師や神官、治療士が増えることで、民を困らせている病へ太刀打ち出来る。応募者が増えているのは嬉しい悲鳴だった。



「はぁ……、私の仕事を増やしたアン様を恨みますよ。」


 憎まれ口を叩くのはロナルドの十八番だ。慣れっこの部下は苦笑いを浮かべ、話題を変えようとロナルドの机に無造作に置かれていた招待状を指さした。



「アン様と言えば、もうすぐですね。」


「ああ。忙しい時に困ったものだ。」


 眉間に皺を寄せたロナルドだが部下は知っている。この上司が机の上に招待状を無造作に置きっぱなしにすることなんて無いということを。




◇◇◇◇



 パタパタと走る足音が響く。


「レイ。神殿の中では走ってはいけませんよ。」


「あ、グレッグさん!」



 娘の治療費の為にアンへの誘拐未遂を起こしたデニスとその娘レイは、アンやグレッグの温情から神殿の敷地内で暮らしている、デニスは神官見習いとして働き、レイはアンのように人の病を治したいと治療士を目指している。



「走ってごめんなさい。新人さんたちの案内、もう終わったから伝えに来たの。」


 グレッグは「ああ、ありがとう」と頷いた。レイは空いた時間に神殿の雑用も手伝っている。毎日忙しく働いているレイを神殿内の大人たちはみんな可愛がっている。



「レイ。今日はもう良いよ。」


「でも……。」


「明日は大切な日だ。しっかり準備してゆっくり休みなさい。」


 まだあどけない少女はへにゃりと笑った。アンからプレゼントされたドレスのことを思い出しているのだろう。アンは、聖女として得られる報酬の殆どを孤児院や治療院へ寄付している。だが、最近になって報酬の一部を手元に残すよう婚約者から言われたようだ。


「孤児院や治療院への支援は俺も応援している。だが、本当に使いたいときの為に手元にも少しあった方が良い。」


 大金を持つことに不安のあったアンだが、管理をギルバートが一緒にしてくれることになりアンは安心して自分用に残すことが出来るようになった。そして初めて聖女の報酬を使ったのが、レイへのプレゼントだった。



「あんな素敵なドレス、私がもらっても本当に良かったのでしょうか。」


「ああ。アン様がそうしたいと思ったんだ。喜んで着ることが一番喜ばれるよ。」


「はい!」


 嬉しそうに返事をし家に向かう彼女の背中を、グレッグは微笑ましく見送っていた。


 
しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界から来た聖女ではありません!

五色ひわ
恋愛
 ミシュリーヌは、第四王子オーギュストの妃としてフルーナ王国の王宮で暮らしている。しかし、夫であるオーギュストがミシュリーヌの寝室に訪れることはない。ミシュリーヌは聖女の力を持っていたため、妻に望まれただけなのだ。それでも、ミシュリーヌはオーギュストとの関係を改善したいと考えている。  どうすれば良いのかしら?  ミシュリーヌは焦っていた。七年間かけて国中の水晶を浄化したことにより、フルーナ王国は平穏を取り戻しつつある。それは同時に聖女の力がこの国に必要なくなったことを意味していた。  このまま、オーギュストの優しさに縋ってお飾りの妻を続けるしかないのだろうか。思い悩むミシュリーヌの前に現れたのは、オーギュストの恋人を名乗る女性だった。 ・本編141話 ・おまけの短編 ①9話②1話③5話

王宮地味女官、只者じゃねぇ

宵森みなと
恋愛
地味で目立たず、ただ真面目に働く王宮の女官・エミリア。 しかし彼女の正体は――剣術・魔法・語学すべてに長けた首席卒業の才女にして、実はとんでもない美貌と魔性を秘めた、“自覚なしギャップ系”最強女官だった!? 王女付き女官に任命されたその日から、運命が少しずつ動き出す。 訛りだらけのマーレン語で王女に爆笑を起こし、夜会では仮面を外した瞬間、貴族たちを騒然とさせ―― さらには北方マーレン国から訪れた黒髪の第二王子をも、一瞬で虜にしてしまう。 「おら、案内させてもらいますけんの」 その一言が、国を揺らすとは、誰が想像しただろうか。 王女リリアは言う。「エミリアがいなければ、私は生きていけぬ」 副長カイルは焦る。「このまま、他国に連れて行かれてたまるか」 ジークは葛藤する。「自分だけを見てほしいのに、届かない」 そしてレオンハルト王子は心を決める。「妻に望むなら、彼女以外はいない」 けれど――当の本人は今日も地味眼鏡で事務作業中。 王族たちの心を翻弄するのは、無自覚最強の“訛り女官”。 訛って笑いを取り、仮面で魅了し、剣で守る―― これは、彼女の“本当の顔”が王宮を変えていく、壮麗な恋と成長の物語。 ★この物語は、「枯れ専モブ令嬢」の5年前のお話です。クラリスが活躍する前で、少し若いイザークとライナルトがちょっと出ます。

冷酷侯爵と政略結婚したら、実家がざまぁされました

鍛高譚
恋愛
「この結婚は、家のため。ただの政略結婚よ」 そう言い聞かせ、愛のない結婚を受け入れた公爵令嬢リゼット。 しかし、挙式後すぐに父が「婚約破棄しろ」と命じてきた!? だが、夫であるアレクシス・フォン・シュヴァルツ侯爵は冷たく言い放つ。 「彼女を渡すつもりはない」 冷酷無慈悲と噂される侯爵が、なぜかリゼットを溺愛し始める!? 毎日甘やかされ、守られ、気づけば逃げ場なし! さらに、父の不正が明るみに出て、公爵家は失墜―― リゼットを道具として利用しようとした者たちに、ざまぁの鉄槌が下される! 政略結婚から始まる、甘々溺愛ラブストーリー! 「愛なんてないはずなのに……どうしてこんなに大切にされるの?」

【完結】お飾り妃〜寵愛は聖女様のモノ〜

恋愛
今日、私はお飾りの妃となります。 ※実際の慣習等とは異なる場合があり、あくまでこの世界観での要素もございますので御了承ください。

冷酷騎士団長に『出来損ない』と捨てられましたが、どうやら私の力が覚醒したらしく、ヤンデレ化した彼に執着されています

放浪人
恋愛
平凡な毎日を送っていたはずの私、橘 莉奈(たちばな りな)は、突然、眩い光に包まれ異世界『エルドラ』に召喚されてしまう。 伝説の『聖女』として迎えられたのも束の間、魔力測定で「魔力ゼロ」と判定され、『出来損ない』の烙印を押されてしまった。 希望を失った私を引き取ったのは、氷のように冷たい瞳を持つ、この国の騎士団長カイン・アシュフォード。 「お前はここで、俺の命令だけを聞いていればいい」 物置のような部屋に押し込められ、彼から向けられるのは侮蔑の視線と冷たい言葉だけ。 元の世界に帰ることもできず、絶望的な日々が続くと思っていた。 ──しかし、ある出来事をきっかけに、私の中に眠っていた〝本当の力〟が目覚め始める。 その瞬間から、私を見るカインの目が変わり始めた。 「リリア、お前は俺だけのものだ」 「どこへも行かせない。永遠に、俺のそばにいろ」 かつての冷酷さはどこへやら、彼は私に異常なまでの執着を見せ、甘く、そして狂気的な愛情で私を束縛しようとしてくる。 これは本当に愛情なの? それともただの執着? 優しい第二王子エリアスは私に手を差し伸べてくれるけれど、カインの嫉妬の炎は燃え盛るばかり。 逃げ場のない城の中、歪んだ愛の檻に、私は囚われていく──。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

私、魅了魔法なんて使ってません! なのに冷徹魔道士様の視線が熱すぎるんですけど

紗幸
恋愛
社畜女子だったユイは、気づけば異世界に召喚されていた。 慣れない魔法の世界と貴族社会の中で右往左往しながらも、なんとか穏やかに暮らし始めたある日。 なぜか王立魔道士団の団長カイルが、やたらと家に顔を出すようになる。 氷のように冷静で、美しく、周囲の誰もが一目置く男。 そんな彼が、ある日突然ユイの前で言い放った。 「……俺にかけた魅了魔法を解け」 私、そんな魔法かけてないんですけど!? 穏やかなはずの日々に彼の存在が、ユイの心を少しずつ波立たせていく。 まったりとした日常の中に、時折起こる小さな事件。 人との絆、魔法の力、そして胸の奥に芽生え始めた“想い” 異世界で、ユイは少しずつ——この世界で生きる力と、誰かを想う心を知っていく。 ※タイトルのシーンは7話辺りからになります。 ゆったりと話が進みますが、よろしければお付き合いください。 ※カクヨム様にも投稿しています。

慈悲深い天使のテーゼ~侯爵令嬢は我が道を征くつもりだ

あとさん♪
恋愛
王太子の婚約者候補に名を連ねながら、政権争いに敗れ、正式任命されなかった侯爵令嬢パトリシア。 彼女には辺境伯家との縁組が命じられた。辺境伯は毛むくじゃらの天をつくような大男で、粗野で野蛮人だと王都では噂されている。さらに独立して敵国に寝返るかもしれないと噂される辺境伯家に嫁いだら、いったいどうなるの? いいえ、今まで被り慣れた巨大な猫を、この際、盛大に開放させましょう。 わたくしは過去の自分を捨て、本来のわたくしに戻り、思うまま生きてやります! 設定はゆるんゆるん。なんちゃって異世界。 令嬢視点と辺境伯視点の2話構成。 『小話』は、2人のその後。主に新婚さんの甘々な日常。 小説家になろうにも掲載しております。

処理中です...