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死ぬ前に退職しましょう
しおりを挟むぱちり、と目を覚ますと見慣れない真っ白な天井と点滴が見えた。
倒れて目を覚ましたら病院なんてドラマみたい、と心の中で苦笑する。体が上手く動かせず、視線をキョロキョロさせるが時間も分からない。まぁ、いいか。
はぁーっと長い息を吐き出した。
「もう、無理だなぁ」
自分の言葉が重く、ゆっくり、ゆっくり、落ちていくような感覚がある。
辞めよう、でなければ死んでしまう。
私、加藤瑞樹は、Webデザイナーとして働いて12年になる。恐ろしい程、激務で朝早くから夜遅くまで働いている。家にいるより職場にいる時間の方がずっと長く、休日出勤は当たり前、残業ありきの業務を続けていた。
ずっと憧れていた仕事で、専門学校を卒業してから今の会社に入り、ずっとずっと働いてきた。激務が嫌になることもあったが、それよりこの仕事が好きだった。大好きだった。だから続けてこれた。生きがいだった。
だけど、病室のベッドで目を覚まして気付いた。いや、本当は以前から気付いていて、見て見ぬふりしていた。
こんなに体がボロボロになって、楽しいこともない、大切な人もいない、そんな人生でいいのか。このままでは寿命がどんどん削られてしまう。体も、心も、ずいぶん前から悲鳴を上げていた。
そして、今日、私の心のバランスを取っていた細い紐が、ブツリと切れてしまった。
大丈夫。32歳で、趣味も彼氏も何にも無いけど。今から職まで無くなるけど。
大丈夫。今から始めよう。生きているんだから。
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