やさしい異世界転移

みなと

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第6章 沈没都市 グラナドザンラ

【233話】 彼女がために

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 時は遡る 斧を持った鎧騎士との戦闘が終わり水路に落ちた後でフレリアがユウトに人工呼吸を行った後だった。
 なぜ彼女がユウトを助けたのか……
 その答えを静かな空間は答えてくれない。

 ただ力の使いすぎの影響及びユウトの人工呼吸を成功した安堵でフレリアはその場で力尽き倒れる。
 それと同時にユウトは目を覚ます。
 水路に落ちた際に口に含んだ水を吐き出しながらゆっくりと体を起こして傍に横たわるフレリアを見つめる。

 すやすやと深層という場所で先ほどまで戦闘していたのにも関わらず気持ちよさそうに寝ている彼女を起こすのは忍びなくて……ゆっくり寝させてあげようと思った。

 彼女がどんな人間なのかはわからない……けれど一度話したり買い物したり戦ったり……そして助けてもらった俺には彼女が今まで会ったことのある十戒士のように悪い奴……だなんてとても思えなくて。
 
 十戒士は俺達の敵……それでも彼女は俺を助けてくれた、理由なんてわからない。
 だけど助けてくれた事実と戦った時の殺意のないその姿……

「おにぃ……ちゃん」

 小声で彼女は呟く寝言なのだろう、お兄ちゃん……多分今の寝言と下層で地面が崩れていく際に放ったそれは俺を指したものじゃないんだろう。
 そうはわかっていても彼女の事を気にしないわけなくて……

 ──バゴーンッッ!!

 フレリアを見ながら考え事をしていたときに突如として目の前の家屋の壁が破壊され魔獣が姿を見せる。
 さっきのゴリラの魔獣に似ているが、それと比べて腕のデカさそして全身から毛が生えたのを見るに別種なのだろう。
 俺達を殺したいのか、家屋の壁に開いた穴から他にも小さめの魔獣まで次々と姿を見て見せる。

 フレリアを起こすか……
 いや、彼女の可愛くも幸せそうに寝ている彼女を起こすことなんて出来ない。
 俺1人じゃここを抜け出すのは無理だ、2人じゃないと……

 なら少しでもゆっくりと休んでもらいたい。
 だから今度は俺が助ける番なんだ。

 ジン器を握りしめ魔獣達に向かって走り出す。
 大型の毛が生えた魔獣は動きが遅いのか小型の魔獣達に追い抜かれて俺は小型の魔獣達を先にバッタバッタと斬り裂いていく。
 
 幸いにも魔獣達が俺に集中してくれるのはよかった……フレリアへは行かせな──

 そう思いながら小型の魔獣を斬ろうとした瞬間だった、右から何かが伸びて咄嗟に右腕で体を守る。

 だが……

 ──バキバキバキッ

 ああ、わかるこれ腕の骨が折れた。 
 いや折れたどころじゃない……ガードした箇所を中心とした骨が音を立てて砕けたのが聞こえながら殴り飛ばされてそのまま家屋に激突する。

 痛いし……まともに右腕が動かせない……
 でも立ち上がる、お兄ちゃんだと呼ばれたから……妹を守らない兄なんていないからだ!

 右腕が使えなくなっても魔力を動かす道理で無理してでも腕を動かせばいいんだ。
 だから俺はまだ戦える、こんなところで倒れたりなんかしない!!


「はぁ……はぁ……」
 
 どれだけ時間が経ったんだろ……俺がこの魔獣達を全滅させるのに時間が掛かったのかそれともそれほど掛かってないのか。
 時計とかないからそれの判断が出来ない。
 
 まだフレリアは寝てるな。
 とりあえず、体についた魔獣の返り血は近くの水路で洗って右腕も何事もなかったように魔力で動かしておこう。

 彼女に心配をかけるわけにはいかないからな……
 そして俺は体を誤魔化して彼女が目を覚ますまで隣でゆっくりと待つのだ。


 時は戻って 深層の城付近では襲いかかる魔獣を返り討ちにし返り血を浴びながらユウトは進む。
 ただ前しか見ず、その足は再び城内へと赴き階段を一回下がってはまた上へと駆け上がる。

 城内で感じた強大な魔力……あれは結果魔法を発動した時のに似ている。
 フレリアが発動したのか?今はその強大な魔力はない……いったい彼女はどうしたんだ?

 そう思いながら俺は鎧騎士が立っていた階まで辿り着いた。
 そこで見たものは……

「フレリア……?」

 部屋の真ん中で倒れているフレリア……そしてその付近では何かが灰となって崩れ去っていくのが見えたがそんな事は気にせずに俺はフレリアの元へと駆け寄る。

「大丈夫か!?おい!!」

 彼女の体を抱きかかえて見る。
 息は……している、そこまで大きな怪我をしているわけではない。
 けれど彼女の魔力はギリギリまで減っていた、おそらくは結界魔法を発動した代償だろう。

 でも大丈夫だ、ただ魔力が切れて気絶してるだけで命に関わるほどじゃない。 
 
 フレリアが無事なのを確認して俺はようやく周りをちゃんと見渡した。
 あたりには焼けこげた匂いが漂っており至る所で小さい炎が上がってるのが見える。
 そしてさっきの灰となって消えているもの……あれは鎧騎士のなれ果て。
 フレリアに焼かれたんだろう……
 
 そして俺はフレリアの魔性輪に少しばかりヒビが入っているのに気が付く。
 元々入ってたのか、それともこの戦いで付いたのかは定かではない。
 魔性輪にヒビが入ってるなんて聞いたことがないからこれがどういうことなのかわからないのだ。

 このまま彼女を連れて下層に行きたいが……

 ──来る

 この城に向かってくる気配を感じる。
 この殺気と魔力……頭の中を黒い魔獣がよぎる。
 
 まだ距離はある、けれどこのままじゃ確実に俺達に追いつく。
 なら俺の取るべき行動はわかる。

 俺はフレリアを抱き上げて鎧騎士が倒れたことで邪魔な岩が崩れ去って現れた階段へと足を進める。
 しばらく階段を上がった後に少し開けた場所があるのでそこにフレリアをゆっくりと置き、袋に入っていた神竜ヒラコラパスの鱗が砕けて出来た破片を彼全て女にかけた。

「ちょっともらうぞ」

 回復効果のある粉……少しでも彼女がために。
 俺はひとつまみ分あればいい。

「お兄……ちゃん?」

 薄らと目を開けて俺に声をかけるフレリア、彼女にはこの先の戦いには連れていけない。
 彼女はアレを目の当たりにするのを嫌がっている……だから俺は彼女を安心させるために。

「大丈夫だ、お兄ちゃんに任せろ」

 そう言い残して俺は階段を降っていく。

 フレリアの話から察するにあの子にも兄がいて、多分その兄も……
 あぁ、わかってる俺も妹がいるからあの子の兄もきっとこんな時こうしたんだろ。

 あの子は普通の子だったんだ、親や兄達を失ったあの日からあの子は過去に囚われてるんだと思った。
 アイツが生きてる限りあの子は幸せになれない……

 鎧騎士がいたところまで降り切った。

「よぉ、久しぶりだな??」

 だから俺が今ここで目の前にいるコイツを殺さなきゃ。

「どうした?イメチェンか??」

 黒い魔獣の姿じゃなく青年の姿……けれどその魔力、その威圧感、その殺気……忘れるはずはない。
 本にはブェイオンとか呼ばれたっけ、コイツは黒い魔獣……下層で俺達を襲って何人も殺した厄災だ。

「さぁないめちぇんというのが何かわからないが戦いの中で最適化された……とでも言うべきか。とりあえず、お前には死んでもらう。
理由はわからないが復活の際にそう刷り込まれたからな」

 ブェイオンは剣をこちらに向けて人間とそう変わらないコミュニケーションをとってくる。
 けれど今更人みたいになったところで俺の剣は鈍らない。

 復活……刷り込み……気になる発言はあるがどれも理解は出来ない。

 けれどはっきりしていることがある。


 俺もコイツも互いを殺したがってる事だ。
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