やさしい異世界転移

みなと

文字の大きさ
66 / 266
第2章 マジックフェスティバル

【65話】 決勝前日の不安

しおりを挟む
 マジックフェスティバル3回戦目が終わり、残すところは明日を挟んだ決勝戦だ。

 優斗は救護班から手当てをしてもらった後自分が寝泊まりする寮へ帰っていった。
 
 寮へ帰るとパゼーレ学園の生徒で今日の試合の結果報告を行うらしいので、大食堂へと向かった。

 そして結果報告が行われていった。
 2年生の方は、1回戦目と準決勝で敗退
 3年生の方は、2回戦目で1人敗北したもののバリオンが決勝まで進んだようだ。
 俺たち1年も結果を報告する。
 準決勝でデイが敗北、そして俺が決勝まで進んだ事を報告した。

 2年生の方は強かった2人が参加出来なかったらから仕方ないと、励まされながらも俺の方に優勝の重圧がかかる。

 まぁ応援されながらも半分脅迫みたいな事も言われながら報告会は宴へと変わっていったのだ。

 俺は疲れていたのか、盛り上がりすぎて記憶の容量をオーバーしたのかはわからないが、その宴の記憶があんまりなかった。

 気がついたら夜の寮の廊下を歩いていたのだ。
 まぁ遅い時間だろうから、自室へ戻り大人しく休眠でもとるか。

「もう寝るんですか?」

 部屋へ戻ろうとする俺に後ろから声がかけられる。その声に反応して俺は振り返った。
 振り返って目に写ったのは赤髪が特徴的なヴァーリンだった。

「どうした、何か用か?」

 ヴァーリンは何か俺に用があるのだろうか?とりあえず何の用か聞いてみた。

「今日の試合、とても素晴らしかったです。まさかここまで来るとは思ってもみなかったです。あの時言った事が本当になるかもですね。」

 ヴァーリンは今日の俺の試合を見て賞賛の言葉を嬉しそうに言ってくる。
 嬉しそうならまぁ特に言うことはないか。

 それよりあの時言った事というのはあの夜の時の事だろう。
 軽いつもりでヴァーリンが言った優勝がもうすぐ達成される、その事なのだろう。

「まぁな、決勝勝てるかはわかんないけどな。」

 あまり期待させないように話す。 
 その言葉を聞いたヴァーリンは少し悲しそうな表情を浮かべる。
 
「そうですか……ならこのマジックフェスティバルが終わった後の進路ってお決まりですか?」

 ヴァーリンはマジックフェスティバルのその後の進路について聞いてきた。
 
 その後の進路……か。
 考えた事ないな。この世界にいる1年は魔法学園にいるつもりだったが、もう少ししたら学園がなくなってしまう。
 その事を考えていなかった訳では無かったのだが、どうしたらいいのかわからなかったのだ。

「いや、特には考えてないな……じゃっ俺はこれで……」

「あっ……」

 なんて言っていいのかわからなかったから俺は逃げるようその場から立ち去って自分の部屋に入っていった。

 すぐにベッドへ飛び込んで寝っ転がった。
 すぐ横の窓から月明かりが差し込む。俺は寝転がりながらも考え事をしていた。
 ヴァーリンの言っていたこの先の事もあるが、それよりも近くにある問題だ。

 クラックの事だ。
 3回戦目の時の彼に違和感を覚えた。動きがいつもより鈍かった。
 最初の方は舐めプだと思っていたが、最後のあの一撃にはどこか必死さを感じた。

 何かあったのだろうかと心配になるが、彼は明後日俺と戦う相手。そんな悠長に心配している暇はない。

 彼の全力はあんなものではないだろう。

 俺は……彼に勝てるのだろうか?
 今使える技、魔法だけでは彼には勝てない事なんて分かっている。
 せいぜい、少し時間を稼ぐくらいしか出来ないのだ。

 ただそれでも1つ、勝てる方法がある……
 俺は魔性輪を指にはめ込み、ジン器を取り出した。

 短剣が3つ、これはそれぞれが手を離れても自在に操れる。だけど操る事に集中しすぎてしまうと、目の前の敵に集中出来なくなるというデメリットがある。

「接続」

 短剣を合体させる。次は弓と矢だ、これはまだ慣れてはいない。矢を使って射ってしまうと少しの間、手が痺れてしまう。
 今日のデイとの試合では、この弱点がバレていない為、着地した時に手の痺れをとる為に少し時間を取れたのは幸いだった。
 
「接……」

 弓と矢を合体させようとする。しかし俺は合体させる途中で止めてしまう。
 このジン器の最後の形態は太刀。これを使えればクラックに勝てるだろう。しかし以前この形態を使った際、出した瞬間手が焼けてしまい戦うところではなかった。

 それから俺はこの太刀を使う事をしなかった。トラウマになってしまっているんだ。

 俺はこの太刀を使わずにクラックに勝てるのだろうか。
 
 まぶたが重くなってきたな。

「その力を恐れているのか?」

 気がつくと目の前には荒れ果てた荒野が広がっていた。
 ここは前にも、学園が襲撃された時にも見た光景だった。そしてそこには以前と同じように灰髪の男が立っていた。
 白いマントを纏った男は俺に背を向けたまま喋っている。

「力を恐るな。その先に、道がある。」

 その言葉には何故か説得力があって不思議な気持ちになる。

「……あ、あなたは?」

 俺はその男に正体を尋ねてみる。

「俺か……俺は……」

 男がこちらを見ようと振り返ろうとした。
 その時、風が吹き荒れ男の姿が見えなくなった。
 
「……はっ!」

 次に俺が見たのは寮の天井だった。

 窓からは朝日が差し込んでくる。どうやら俺は夢を見ていたようだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

スター・スフィア-異世界冒険はお喋り宝石と共に-

黒河ハル
ファンタジー
——1つの星に1つの世界、1つの宙《そら》に無数の冒険—— 帰り道に拾った蒼い石がなんか光りだして、なんか異世界に飛ばされた…。 しかもその石、喋るし、消えるし、食べるしでもう意味わからん! そんな俺の気持ちなどおかまいなしに、突然黒いドラゴンが襲ってきて—— 不思議な力を持った宝石たちを巡る、異世界『転移』物語! 星の命運を掛けた壮大なSFファンタジー!

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

異世界サバイバルゲーム 〜転移先はエアガンが最強魔道具でした〜

九尾の猫
ファンタジー
サバイバルゲームとアウトドアが趣味の主人公が、異世界でサバゲを楽しみます! って感じで始めたのですが、どうやら王道異世界ファンタジーになりそうです。 ある春の夜、季節外れの霧に包まれた和也は、自分の持ち家と一緒に異世界に転移した。 転移初日からゴブリンの群れが襲来する。 和也はどうやって生き残るのだろうか。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。 気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。 だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう―― ――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

処理中です...