その男、ストーカーにつき

ryon*

文字の大きさ
10 / 111

10

しおりを挟む
 本当はめちゃくちゃゲンナリしていたし、朝っぱらから目立つ車を家の前に横付けにされたせいで無駄に近隣住民の皆さんの視線を集めてしまい、怒鳴り付けたい衝動に駆られた。

 しかしそんな真似をしたら、昨日の努力がすべて無駄になってしまう。
  
 そう考え、頭の中では彼の事を思い切り罵倒しながらも、無理矢理笑顔を作りありがとうございますとだけ答えた。

 勤務先であるにこにこ弁当に到着するまでの間、終始西園寺さんはご機嫌だった。
 だから昨日からの僕の行動になんて恐らく何の意味もなかったのだと気付き、ひとり更衣室で嘆息した。


***

「なぁ、ハラちゃん。
 ‥‥‥あの作戦、ぜんっぜん効果がなさそうなんだけど」

 お昼前になり、出勤してきた遅番のハラちゃんに恨みがましい視線を向け、言った。

 するとハラちゃんは一瞬キョトンとしたように首を傾げ、それからプッと吹き出した。

「陸斗、あれマジでやったんだ?
 あんなのはあくまでも憶測の域を出ない話だし、そりゃあ有効とは限んないだろ。
 っていうか下手したら、ますますストーキングが酷くなったりして!」

 西園寺さんが悪人ではないのをハラちゃんも知っているから、冗談交じりに脅された。

 でも、確かに。
 ‥‥‥その可能性、全く考えてなかったな。

 それにもしも『冷たくされ慣れていないから』僕に執着しているんじゃないのだとしたら、純粋に気持ちを向けてくれている彼を、弄んでいる事にはならないか?

 これまであれだけ塩対応を続けて来たのだから、昨日も特別優しくしてはいないものの、他の人と接する時と同じように普通に話すだけで、その気もないのに変に期待させてしまっていたとしたら‥‥‥。

 昨日の西園寺さんの嬉しそうな笑顔を思い出し、罪悪感から眉間に深いシワが寄るのを感じた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...