蔑ろにされましたが実は聖女でした ー できない、やめておけ、あなたには無理という言葉は全て覆させていただきます! ー

みーしゃ

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第一部 王立宮廷大学を目指そう!

56. 喜びと絶望の中

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 カテリーナは、一試合目の様子から語り始めた。
 一人目の対戦相手は隙だらけだったため、試合開始と同時に勝負が決まったことを説明した。

「ふふふ。女性の受験生だったから、完全に油断したんだな」

 アレクシオスは満足そうに笑みを浮かべた。

「で、二人目ですが……えーと、落ち着いて聞いてくださいね」
「大丈夫だよ」

 興奮し、何度も椅子から立ち上がる兄を見てきたカテリーナは、慎重に考えながら話すのだった。

「二人目の相手は、防御の型の試験で外された騎士の方でした。装備が少し変わっていて、大盾を持っているのに、それ以外は軽装だったんです」
「……大盾に軽装?」

「はい。試合開始と同時にバックステップし、目くらましに盾を投げつけてきて、足首を狙われました」
「何っ!?」

 再びアレクシオスが勢いよく立ち上がる。

「そんなに興奮しないでください。大丈夫です、ちゃんとかわしましたから」

 アレクシオスは座り直し、低く唸った。

「まったく、受験生相手に奇襲まがいの真似をするとは……! いったい何のための試験だ!」

「それから、相手は半身になって突きを主体とした攻撃に切り替えてきました。軽装はそのためだったんです」
「なるほど……。だとすれば、最初の奇襲はなおさら許せないな」

「それで、私の剣を持つ手を狙ってきたので、カウンターで小手を決めました」
「おおっ! 素晴らしい! しかし、受験生相手に指を狙うとは……危険な行為だ!」

「……ですが」
「ん? ですが?」

「先に言っておきます。興奮しないでくださいね」
「う、うむ……わかった」

「……一本が、認められなかったんです」
「何っ!?」

 再び、アレクシオスが勢いよく立ち上がった。

「だから、興奮しないでくださいと言ったじゃないですか!」
「いやいや、これは大学の入学試験だぞ! 受験生の力量を測るための試験なのに、恣意的な不正ではないのかッ!」

「まあまあ、まだ続きがあるんです。……あー、でも言っていいのかな……本当に怒らないでくださいね」
「……約束はできないが、聞こう」

「…………。お兄さまが『誤審もある』って言っていたのを思い出し、気持ちを切り替えて反撃に出ました」
「うんうん」

「追い詰められた相手が逆転を狙って踏み込んできたので、それをかわして喉元に剣を突きつけたのです」
「おおっ! 今度こそ文句なしの一本だ!」

「ところが、相手が止め剣を無視してタックルしてきたんです」

 カテリーナには、兄から“ブチッ”と何かが切れる音が聞こえたような気がした。

「ふざけるなーッ! それでも騎士かッ! 剣の騎士団に今から抗議に行ってくる!」

「お兄さま! まだ話の途中です! 落ち着いてください!」
「ぐぬぬ……しかし許せん! 明らかに型の試験の逆恨みだろう!」

「はい。他の騎士たちからも怒号が飛んでいましたから。その騎士は私に最高点だけ与えて、勝敗なしの無効試合にしようとしたんです。でも、私は試合の続行を申し入れました」
「えっ? 勝利扱いではあったんだね?」

「はい。ただ、お兄さまと同じく、私もブチギレていたんですよ」
「そ、そうなのか……」

「もう試験ではなく、命がけの決闘のつもりで戦いました」
「で、どうなった?」

「二本の突きで肘と肩にダメージを与え、相手を動けなくしてから、再び喉元に剣を突きつけてやりました!」
「おおっ! 流石だカテリーナ! 剣の騎士団の騎士相手に、四本……いや、五本も決めたということだね!」

「はい。その後、団長さんが現れてお詫びをされて、この試合と次の三試合目も勝利扱いで、最高点をつけてくださることになりました」
「三試合すべて勝利で満点……! 最高だよカテリーナ!」

「ありがとうございます、お兄さま。全てお兄さまのおかげです」

 普段は冷静なアレクシオスも、カテリーナのことに関しては、良くも悪くも感情を隠さずにはいられなかった。

「あ、でもこの話には続きがあります」
「えっ? 悪い話じゃないよね?」

「はい。試験の規定で三試合行わなければならないため、点数に関係なくもう一試合行うことになったんです」
「なら良かった。点数には関係ないんだね」

「はい。ただ、団長さん自ら相手をすると言われて……」
「まさか、マルキアノス団長が?」

「はい。試合前の組み手では、あっさり剣を奪われました。本当にすごい方でした」
「そうだろう。マルキアノス殿は、剣の腕一本で今の地位を築いたお方だからな」

「手加減はしてくださったと思うんですが、団長さんの二本の剣は圧倒的でした。追い詰められた私はこのままだと負けると思い、一か八か足を開ききった低い姿勢からの突きを出したのです」
「え、まさか……?」

「はい。団長さんに勝ったんです!」
「!!!」

 アレクシオスは固まった。

「もう一度確認するけど……あのマルキアノス殿に勝ったんだよね?」
「はい!」

「……これは大変なことだぞ。周りの反応はどうだった?」
「皆さんすごく褒めてくださって、団長さんも私を抱きかかえて喜んで下さり、卒業後は剣の騎士団に来てほしいとまで言ってくださいました!」
「……抱きかかえて?」

 アレクシオスは、その言葉に一瞬ピクリと反応したものの、すぐにマルキアノス団長に勝ったという事実に歓喜の声をあげるのだった。

「本当におめでとう。マルキアノス団長に勝つなんて、人生を変えるほどの出来事だよ。この事実が伝われば、君は有名人になってしまうな」
「やはり、有名な方なんですね」

「うん。今は子爵だしね。国王陛下からも信頼されている方だよ」
「そうなんですね」

「……ん? 確か独身だったはず。ま、まさかと思うけど、誘われたりとか、何か、その、何にもないよね?」

「ははは、何もありませんよ。だって試験中ですよ。誘われたのは『剣の騎士団に』です」

「そ、そうだよね! よし、今日はお祝いだ! 試験で最高の結果を出した上に、マルキアノス団長にも勝ったぞー!」

 カテリーナは、兄が自分のこと以上に喜んでくれたことが、何よりも嬉しかった。


   ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


――卑怯者!

――それでも名誉ある騎士かっ!

――お前は剣の騎士団の名誉を地に落としたのだ!

 パナギオティスの頭の中に、これら罵声がずっと駆けめぐっていた。
 神聖魔法で治療を施されたため、歩くことはできたものの、帰りの足取りは重かった。

「俺はもう終わりだな……」

 そんな中、声を掛ける者がいた。

「もしかして、剣の騎士団の方でいらっしゃいませんか?」
「……誰だお前は?」

 その男は顔を隠すようにフードを被っており、魔導師のような装いをしていた。

「私は以前、魔物討伐の際に命を救っていただいた者です。かなりお疲れのご様子……大恩ある剣の騎士団の騎士さまとお見受けしましたので、つい声をかけてしまいました」
「ふっ、剣の騎士団の騎士さまか……あいにく『元』だがな」

「えっ、何かあったのですか?」
「お前には関係ないだろうっ!」

 パナギオティスはやや怒気を含んだ声で言い放った。

「そうかもしれません。しかし、恩人を見捨てるのは私の信条に反します。ここで出会ったのも何かのご縁……よろしければ、一杯、ご一緒しませんか?」
「…………」

「どうせ飲むつもりの酒であれば、一人よりは二人の方が楽しいというもの。……行きましょう」

 味方を失って、パナギオティスは孤独に沈んでいた。
 その心の隙を突くように、男の声は柔らかく、言葉巧みに彼を誘うのだった。

 しかし、そのフードの奥の瞳は、怪しい光を放っているように見えた。
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