満ちる月に

八郎

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第一章夢からの目覚め

正しい源家での過ごし方

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「嫁……はまあ、おいとくとしてゆっくりしていきなさい」

翁の言葉は有難い。
元々ここしか行くところ何てある筈もなく、好意にすがるしか無いのが、何とも情けない。
他人を気にする事など、光希と仕事以外で無かったのに、人生とはわからない物だ。

さて、どうするか…。
今のままでは、安倍晴明に勝てない。
悔しいが奴は強い。

「修行が必要か…」

つい、考えていることが口からホロリと出てきてしまった。
拾い上げたのは翁。

「修行をするのかい?」
「え?…っすみません。口から出て来てしまいました」

よもや無意識に出て来てしまった言葉を丁寧に拾い上げてくれるとは思っても見なかった。
それも、格上の翁にだ。
糞爺には絶対に無いことだ。

「この家には丁度良い場所が有るが、使うかね?」
    
何故に普通の家で、修行場が有るのか?
いや、源家と言うだけで普通じゃないか。

「使わせて頂けるなら、是非にも!」
「じゃあ、八雲が帰って来たら案内をさせよう。…多分そろそろ帰ってくるだろうよ。……まあ、勘だがね」

不敵に笑う翁は、年よりも若く見える。
翁の言葉が早いか、ドアをノックする音が聞こえてきた。
勘なのか、それとも優れた洞察力か。

「入れ」

主から許可が降りるとドアが開いて、入室してきたのはまさかの八雲だった。

「何だ、もう帰ったのか」

先程あんな事を言っていた癖に八雲には、咎める様な言い方をする。

「仕事は終えました。…咎められる謂れは有りませんが?」
「まあ、そうだろうな」

しれっと答える翁。
やはり解っていて言っているところは、糞爺に精通するものがあるか。

「なら、言わないで下さいよ」

文句を言ったのは八雲。
それに対して、

「もう帰ったのか?と聞いただけだろうが…八雲地下にある演習場に蓮さんを連れていってあげなさい。丁度良いから、お前もなまった身体を鍛え直せ。…情けない、あの小倅にやられっぱなしとは」

あの小倅とは、安倍晴明の生まれ変わりの事だろう。
はて、あいつは今生では何者なのだ。
人の子として生まれているところを見ると、転生者と言うところは間違い無さそうだが。
それにしても、安倍晴明を小倅とは翁は解っていて言ってるのだろうか?
だが、それよりも八雲と一緒に修行はご免だ。全力で拒否しなくては!

「そこまでご迷惑は掛けられません。案内だけで結構です」

慌ててお断りする俺に間髪いれずに八雲が突っ込んできた。

「いえ、蓮さんが修行すると思ったので、急ぎ仕事を片付けて来たんです。是非ご一緒させてください」

八雲め、余計な一言を言いやがって。

「八雲…お前結婚する前から尻に敷かれてるな」
「いけませんか?」
「いや、駄目だろう」

何を下らない話をしてるんだか。
つい、俺も突っ込んでしまったじゃねーか。

「駄目ですか?…お祖父さんだって、お祖母様には敵わなかったではありませんか」
「まあな、それが夫婦円満の秘訣だ。…お前も見習え」
「蓮さんに逆らう気は毛頭有りません」
「家庭で男が勝っちゃいかん。…家の主は女だからな」

……この二人。
八雲は翁にそっくりだ。
置いていこうかな、蓮がそう考えていると急に話此方に回ってきた。

「と言う訳だから、蓮さん。…八雲を宜しく頼むよ」
「はい?」

だから、何でそうなるんだよ。
八雲は良いところの坊っちゃんだろうが?
源家の跡取りだろう?

「末永く宜しくお願いします」

八雲がそれに被せてくる。

「冗談はこのくらいで、私はもう退出しても宜しいでしょうか?」

付き合いきれん。

「ああ、構わんよ。用事は済んだ」

しれっと言ってくれるが、用事は済んだって、その用事とは俺の品定めか、八雲がどう動くかか?………それとも両方か?
別の何かか?

「では、蓮さん。早速いきますか?」
「お願いします」

翁の手前、つい八雲にも敬語になってしまう。

「俺にはいつも通りで構いませんよ?…気を使ってばかりでは蓮さんが疲れてしまう」
「どこでも……気の抜けるところなんて生まれてこの方一度もなかったさ」

通常使用だから気遣い無用、そう使えたかったのだが、どうやら俺は返答を間違えてしまった様だ。
八雲は違う風に捉えたらしい。

「じゃあ、俺の前でだけでも寛げる様に努力します」

にこやかに宣言する八雲。
因みにここにはまだ、翁がいるからな?
幸い聞かないふりをしてくれる様だが。


「別にそんな努力しなくても…」

絶対に口にはしないが、割合八雲の前では気が抜けている。
失言が多いのがその証拠だ。
絶対に言わないけど。

「誰が何と言おうと努力し続けます」

うん、ほっとこう。

「では翁、失礼致します」

俺は八雲を置いて部屋を出た。
と言っても場所が完全に解る訳ではないが、予測はつく。

「待ってください、蓮さん。…俺も行きます」
「お前、スーツ姿で修行するのか?…ああ、案内だけなら必要ないか」
「いえ、俺も一緒に修行しますよ。…相手はいた方が良いでしょう?…着替えは着いてからでも出来るので、ご心配なく」
「別に心配してない」

指摘すれば、修行何てやらないんじゃないかって、ちょっと考えたからだ。

「ああ、最初に伝えておきますが、あの部屋の主は少々変わっていますので、気にしないでくださいね」
「いや、んな事を言われたら誰だって気にするだろ?」

そんなこんなで、俺達は修行するために源家の地下に向かう事になったのだ。



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