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第一章じーちゃんから貰った鍵

誠と精霊王とじっちゃんとpart2

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「そなたのせいではあるまい……」

風の精霊王は誠に聞こえない位の声で呟いた。元より誰に話し掛けている訳でもない。考えている事を思わず声に出してしまったと言う方が近いだろう。
誠の人柄が精霊王すら垂らし混んでしまったのだ。
それこそが、龍人よりも凄い誠の能力だった。

「理由はどうであれ、俺がやったんだから俺のせいだろ?……それこそ精霊達には何にも関係のない話で被害を被ったんだ、相手の理由何て関係ないだろ?」

それを言っているのが、行ったのが誠でなければ、その通りだった。
精霊には相手の理由など関係はない。
本来なら精霊の怒りを買って地獄を見ていても可笑しくはないのだ。

「誠…そなたは我が同胞を助けた」

「未だ助けられてねーよ……」

苦し気な苦い表情を見せる誠を風の精霊王はただ黙って見ていた。
誠には精霊に対する畏怖は無い。
その存在を疑ってすらない。ただそこに有るのが当たり前の存在として受け入れ、大切だと思ってくれている。
人間にしてみれば精神性の強い精霊だからこそ、その感じ方に人と成りが出るのだ。

誠の側は心地好い。
助ける理由はそれだけで十分だった。

「誠、そなたには特別に我の力を貸し与える。それによりそなたは元の世界で目覚める事が出来るだろう」

この言葉に驚いたのは龍人だった。
風の精霊王は単に起きるだけの力を貸すと言っているのではない。
誠はバカだから気付いてはいないだろうが、それは王の力を付与されたに等しいのだ。
龍人も始めこそ自分に似ている誠を誰よりも理解しているつもりだった。
だが、この世界に来てもう既に誠は龍人の理解を軽く越えていた。
ああ、自分の孫は生まれ育った人間界ではどれだけ退屈で生き辛かった事だろう。
龍人でさえ、妻がいなければ戻ったり何てしなかった。

「俺を起こすのを手伝ってくれんのか!?…サンキュー!!…風の精霊王は良い奴だな!」

龍人がわりと哲学的なシリアスな考え事をしている傍ら頭の悪いことを言っている孫に呆れ包も、そんな誠だからこそこの国を救ってくれるかも知れないとそう思った。


「で?…俺に力を貸してくれる代償って何なんだ?」

「「!!!」」

これには龍人のみならず風の精霊王も驚いた。確かにこれは契約だ。
契約には代償が必要で、その事を知らない筈の誠の口から、その言葉が当然の様に出てきた事に驚いたのだ。

「……フッ、何れそなたの力を貸して欲しい」

見返りを求めていなかった風の精霊王だが、ふと思い立った事があり、そんな事を言ってきた。

「ふーん、解った。その時が来たら言ってくれ」

「何かと聞かぬのか?」

「必要ねーよ。あんた程の奴の力を借りなければ起きられ無い状態に今俺はいるんだろ?……それなら俺は俺の出来る最大限で答えるだけの話だ」


風の精霊王が、悪戯小僧の様にニカッと笑う誠に落とされた瞬間だった。
例え殺されたって笑って受け入れそうな、そんな笑顔だ。
まあ誠は、実際にその時になれば全力で購いそうなのだが、それは風の精霊王には関係のない話だ。

そんなこんなで、契約だか何だか解らないうちに誠は風の精霊王の力を手に入れたのだった。

これがロールプレイングゲームで、誠が自分のステータスを見ることが出来たなら、きっと誠の能力地は∞を示している事だろう。
たらったったったった~♪という何処かで聞いた事のあるBGMがバックで聞こえて来そうだ。
そしてチートな特殊スキルは勿論【人垂らし】だ。



◇◇◇

誠が目を覚ますとレインと空に白がいた。
誠にとってはそうであろうが、全てを知っていた白は置いておくとして、レインと空にとっては、ちょっと賢そうなキリッとした誠が、何時もの腑抜けた表情になったかな?位に過ぎない。
何故なら風の精霊王が誠の体を動かしていたからだ。

「よお!!…久しぶりだな!」

誠が3人(?)に声をかけると、空とレインは何言ってっだ?この人は?という表情をしたから、流石の誠も2人に理由をかなり買い摘まんで説明した。
いや、風の精霊王が誠の中にいたことは知っていたが、見た目は同じ人物に他ならない。
龍人はブレスレットの中で『いや、説明を端折り過ぎだろ……』と呆れていたのだが、誠はどこ吹く風だ。

元々頭の良いレインと空は、誠の説明してんだかしてないんだか解らない説明でも的確に理解した。

……理解して、誠の規格外さに絶句した。
だって、精霊を味方に付けるんでも相当だ。それが王様だっていうんだから、何者だって話だろう。

当の本人はただヘラヘラしている。
いや、誠に忠誠を誓ったし、尊敬しているはしているのだが………ヘラヘラしてるし。

「「………」」

二人は無言になると、何かを悟った様な表情を見せた。
誠を理解しようとするだけ無駄なのだ。
何せ誠はあの破天荒な龍人の孫なのだから。
そんな二人をブレスレットの中から見ていた龍人は、誠にしか聞こえない直接頭に語りかける方法で抗議した。

『おい、誠。お前がそんなだと俺までバカだと思われるだろうが……』

『相変わらず失礼だなじっちゃんは!!…俺とじっちゃんはそっくりだって、ばーちゃんも親父も母さんも言ってたぞ!!』

誠の言葉で龍人は少なからずショックを受けていた。
息子と嫁にならまだ良いが最愛の妻にまでそう思われていたなんて………いや、自分でも似ているとは思っていたが、バカな部分も似ているとは考えが及んでいなかったのだ。龍人は破天荒に見えてその実確信犯だ。行き当たろばったりな誠とは違う。

ただ、本質的な部分では誠はかなり頭の回転が早い。それがお勉強というカテゴリーでの人間界で活かされていなかっただけの話だ。

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