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本編1章
アッシュは優しい
アッシュの別荘に来てから俺は心穏やかな日々を送っていた、アッシュはビックリするくらいに俺に優しい。
ゲームの中のイメージと随分とかけ離れてるから申し訳ない気持ちになる。
アッシュが忙しくて来れない日は寂しいし、会いに来てくれた日は嬉しかった。
アッシュが気遣ってか、護衛の人が外にいるだけで俺はアッシュ以外の誰かと話すことはほとんどない。
俺が酷い目にあったのを気づいてるからこそ、他人と話さなくてすむようにしてもらってる、それが嬉しい気持ちもあるけど、そのせいか、アッシュ以外の話し相手がないのはちょっと寂しい。
わがままなんて言える立場にないけど、アッシュに保護してもらえなきゃ俺は今頃どうなってたかわからない、それを考えるだけでもゾッとする。
そんな日々を送ってれば当然のように俺はアッシュに心寄せるわけで、別に男を好きなわけじゃないと思う。
けどなんだか、ここまで一生懸命俺を愛してくれてどこまでも優しいアッシュの気持ちに同じ気持ちを返せたら思うようになったんだ。
今日はアッシュが一緒に食事をしてくれる日だから、楽しみに待っていたのだけれど、外が慌ただしい。
どうしたんだろ?と外にいる護衛の人に声をかけてみる。
「あの、どうしたんですか?」
「ユーリ様は中にお戻りください、外は危険です!」
慌てた様子で中に戻される時にチラッと見えてしまったんだ、アッシュが肩に怪我をしてるところを。
目の前が真っ暗になった、だって、あの怪我ってたぶん俺のせいなんじゃ…。
ガタガタと体が震えて、護衛の人が見られたことに気づいたのか、優しく声をかけてきた。
「落ち着いてください、皇太子殿下は大丈夫ですから、今はとにかく中にお戻りを…」
何重にも膜がはられたみたいに声が遠い、意識がグラグラする。
自分のせいでアッシュが…アッシュが死んだら、そんなの…やだ、無理だ、耐えられない。
ボロボロと涙が溢れ出て、アッシュのほうへ走り出そうとすると止められて、強引に中に戻されて扉が閉められてしまった。
「やだ!やだ、アッシュ、アッシュ!」
閉められた扉をドンドン叩いて、出して!と何度も何度も叫んでも返ってくるのはまだ中にいてくださいだけだった。
ズルズルと扉の前で蹲ってひたすら泣いていた、あれからどれくらい時間が経過したのかも時間の感覚なんてなかった。
頭の中はずっと嫌な考えばかりが浮かんでは消えていた、アッシュが死んじゃう、アッシュが死んだらどうしたらいいんだ?そんなことばかりが浮かぶから涙はとめどなく溢れ出す。
膝を抱えて泣きじゃくってると外がやっぱり騒がしくて、なにかが起きてるのはわかった。
きっと俺のせいだ、俺がここにいるから、なにかあったんだ、キリヤは王宮騎士団団長になれる実力を持ってるし、もしかして謀反でも起こしたのかも?
それとも、シエルやカナタだってわからない、シエルは公式設定で実力未知数扱いだったし、ただ、主人公の護衛役でもあるからそれなりに強い設定ではあったはずだ。
カナタは天才的な頭脳と発明品があるから、なにかをしでかせばそれはそれで驚異になるはず。
リバーは王家の人間でもあるはずだし、どうなんだろうか、あの人は本当に実力がわからないから怖い。
誰かが俺を迎えにきたのかもしれない、それで、こんなにも外が騒がしいのか、皇太子殿下を敵にするなんて国を敵にすることなのに…。
怖い、コワイ、こわい………。
「アッシュ助けてよ…」
怖くて震えながらも言葉がこぼれ落ちた、アッシュに助けを求めるなんて間違ってるのはわかってても、ここに来てからずっと優しかったアッシュだけが自分にとって唯一の救世主なんだ。
外がようやく静かになって、扉が開いた。
後ろを振り向くとそこには、肩に包帯を巻いて、その先あるはずの腕が片腕失われていた、痛いはずなのに優しく俺を微笑んで見下ろすアッシュの姿があった。
「アッシュ……?」
「すまないね、心配させてしまって…」
「なっ、なんで、腕…腕どうしたの!?」
「毒を受けてしまって、切り落とすしか手段がなかったんだ、腕の1本ですんでよかったよ」
そんな、毒?毒って、じゃあ…もしかして…。
「何も心配いらないよ、ユーリ、全てが片付いたんだ、これからは私が君を守ってあげるのができる」
しゃがみ込んだアッシュの腕が背中に回されて、強く抱きしめられる。
とくんとくんと鼓動を感じて、温もりを感じて、アッシュが生きてることを喜んだ、強く強く背中に腕を回して泣きながら抱きつく。
「アッシュが…生きててよかった…」
そう呟けば「ユーリを置いて死ぬなんてできないさ」と返されて嬉しかった。
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