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本編2章
最期の日
妊娠が判明した日、夢を見た。
いつもの夢とは違って真っ暗な中にシエルは1人で佇んでいた。
俺を見るとシエルは悲しげな頬笑みを浮かべた。
それが悲しくて、胸が締め付けられて苦しくて、手を伸ばしてシエルに触れようとするとシエルが煙のように消えた。
「シエル!」
手を伸ばして目を覚ました、はっ、はっ、と呼吸が荒くなって冷や汗をびっしょりとかいていて、服が肌に張り付くのが気持ちが悪い。
汗で張り付いた前髪をかきあげて、呼吸を整えて、ふぅと息を吐き出し、ドッドッドッと早くなる鼓動が少し落ち着いてから部屋を見渡す。
シエルがいない、いつもならそばにいてくれたのに。
あの夢はやっぱり俺にお別れする夢だったのか、本当にシエルは俺の前から消えたのか、目の前が真っ暗になるようだった。
シエルがそばにいたからまだ頑張れると思ったのに、どうしよう、どうしたらいい?
息が苦しい、胸がざわつく、どうして、シエルは消えたんだ?
俺が妊娠したから、そうか、そうだよな、俺の事好きなのに好きな奴が違う男の子供を妊娠したら辛いに決まってる。
決まってるけど、……シエルがいなくなったのはつらい。
どうしよう、どうしよう、俺は…その時、脳裏に浮かぶのは生きているから結ばれることが出来ないことだった。
そうか、俺が死ねば…きっと、シエルは喜んでくれる…。
この子には悪いけど、ごめんな?俺のせいで道ずれにする事になるけど…。
お腹を撫でながら微笑む、もう俺は迷わない。
先に待ってるシエルの元に俺は逝く、それがきっと俺の幸せだから。
シエルと結ばれるために必要な事だから。
心に決めてから眠りについて、目を覚ますとすっきりした気分だった。
朝の爽やかな日差しが心地いい、心地いいと感じれたのはいつだったか、最近は心の余裕なんてなかったからな。
でも、今日は違う、今日は俺はシエルの元に逝くんだ。
そう決めたからか、心が軽い、歓喜で溢れるようだった。
いつもと同じようにデスペア学園に到着すれば、俺は真っ直ぐに屋上に向かった。
最期を選ぶのはここにするって決めてたんだ、家で死ぬのは家族に申し訳ない、それならいっそ…アッシュ、君が俺を追い詰めたから悪いんだよ。
そう、俺はアッシュへの呪いを残すためにここを選んだんだ。
もし、万が一、また次があって、その次でもアッシュに記憶があったなら、俺が自殺することは意味がある気がするから。
だからここで死ぬことを選んだ、全ての始まりでもあるからな。
屋上の縁に立って、下を見下ろすと俺が立ってることに気づいたらしい生徒が下でザワついていた。
「はっ、俺は最後まで見せ物なんだな」
ぱっと前を見れば消えたはずのシエルがいて、穏やかな頬笑みを浮かべて俺を見ていた。
「シエル、今からそっちに逝くよ」
「ユーリ様…」
シエルが俺に手を差し伸べてきた、その手を取って握り締めれば微笑み合う。
後ろで屋上の扉がバンと音を立て開くのを聞いて振り向けば、アッシュがそこにいた。
「ユーリ、なにをするつもりだい?」
「アッシュごめんな、俺もう限界なんだ、なにもかも…」
「ユーリ!!」
アッシュが走って俺に近づいてきて、俺の服を掴む寸前のところで俺は屋上から飛び降りた。
最期に見たアッシュの表情は絶望に歪んでいて、胸が張り裂けそうだった。
結局のところ俺は誰も選べてなかったらしい。
シエルの方を見れば、シエルは優しく笑っていた、穏やかで満たされるような表情だ。
俺も微笑んだ瞬間、激しく体を地面に打ち付けたことのが俺の最後の記憶だった。
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