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シエル番外編
俺の未来
男と一緒に教会に入れば、そこには何人か俺と年齢が変わらない子供と1人のシスターがいた。
子供達に囲まれて話をしていたシスターが俺達に気づいたらしく目が合った。
その瞬間、シスターは慈愛に満ちた頬笑みを浮かべて、鈴が転がるような可愛らしい声音で言葉を紡ぐ。
「おかえりなさい、神父様、隣の子は新しい子ですか?」
「そうだよ、威勢のいい子でね、気に入ったから連れて帰ってきたんだ。生きるための術を教えるためにね、この子は見込みがあると思うよ」
「そうですか、貴方、お名前はなんて言うの?」
「……シエル」
俺が一言返しただけでも、嬉しそうにしてる彼女が不思議でしかたなかった。
普通なら怒ってもいいんじゃないかってくらい俺の態度はよくないと思う。
それでも、俺はまだこの大人達を完全に信用したわけじゃないから警戒は怠らない。
「おいおい、名前だけかよ、そこは好みのタイプとか、趣味とか好きとか嫌いとかさ、なんかあるだろ?」
「もう、すーぐそうやってイチャモンつける! まだ警戒してるんでしょ、いきなり教会に連れてこられても怪しいもんね、神父様って胡散臭い雰囲気あるし」
「うんうん、神父様ってそもそも、神父様ってガラじゃないもの。胡散臭いのわかる!」
いきなりシスターの傍にいた子達が次々と話し出して、神父のことを胡散臭いとは思ってるのかと驚いた。
まぁ、どう考えても胡散臭いんだけど、だいたい、貴族みたいな雰囲気してるくせに体幹がめちゃめちゃよかったりとか、怪しいところしかねぇだろ。このオッサン。
そう思ってれば、神父が豪快に笑いだした。
「はははっ、そりゃあ胡散臭いのはしょうがねぇだろよ、俺は本来かたっくるしいのが苦手だからよ。神父らしく振る舞ってるだけさね」
「……ッ!?!?」
喋り方も雰囲気も変わった神父に俺は驚いて言葉も出なかった。
髪を後ろに撫で付けてオールバックにした神父は、どこからどう見ても、さっきまでの温和な紳士って感じがしない。
どちらかといえば、ワイルド系なオッサンって雰囲気だ。
どういうことかわからなくて、混乱してる俺を見兼ねたのか、シスターが口を開いた。
「神父様は元軍人さんなんですよ、王宮騎士団に勤めていた経歴もありまして、引退してからは、こうやって孤児を育ててるんです」
「……へぇ」
元軍人、だから、胡散臭く感じたのか。
得体の知れないなにかを感じたのも死線を何度も乗り越えてきたのだろう。
体幹が凄いのも俺を軽々く抱き上げたのも、ビクともしなかったのも元軍人と言われたら納得出来る。
「まっ、そんなたいしたもんじゃねぇよ。軍人辞めたら暇になったんでな、どうせなら国のために役立つ人材をガキの頃から育てるのもいいかもなって考えただけだ」
「アンタの生きる術って……」
「おっ、わかったか、坊主? 俺が教えるのは戦う術、人を殺す術だ。まぁ、それを間違った使い道はすんなよな? この国のため、未来を担う人達のために、お前達を育てる。立派に育ったらよ、ここから出て護衛をやるんでもよし、ここに暮らして裏社会に生きるんでも自由にしていいぜ」
裏社会と聞いて、思いついたのは殺し屋かと思った。
この国のためにならない存在を殺すってことだろうか?
俺のその疑問を読んだかのようにオッサンが喋りだした。
「安心しろ、殺しはしても、相手は悪人だ。この国のためにならねぇ連中だけさ、私腹を肥やして民を苦しませるような奴とか、まぁ、そんな感じだ」
「ふーん、善人と悪人の線引きはアンタがするのか?」
「ふっ、まぁ、そうなるが、下調べはきっちりとするぜ、俺とクレアでな」
「そうですよ、安心してください。民を本当に苦しめてる存在なのか、それを行ってる理由から全て調べてから依頼を受けるかは決めてますから」
「……わかった」
俺は生きるためなら、なんでもすると決めた。
それが例え血にまみれた人生になろうとも。悪いことをして生きるよりは、ずっとずっといいはずだ。
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