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出会い編
12.嫉妬?
しおりを挟む"これ獅朗に"??少し前まで名前と顔が一致しなかった男を呼び捨て?獅朗の方が年下だから?どうしたんだ姉貴?脳内でハテナがいっぱい溢れながら路臣は営業一課にやってくる。
それはお目当ての美人社員・春紅と話している時もずっと脳内にこびりつき、試しにこの美女を呼び捨てに呼んでみたらどうなるのだろうかと思ってしまう。きっと変な顔をされるか、一瞬、間が空くだろう。
確かにこの会社はどんな役職を持っていようがただの平社員も名前で呼び合う。
社長ですら名前で呼ぶ。
でも、それとは明らかに違う気がするのは路臣がずっと近くで美云を見てきたからだろう。相手に敬意を払うことを良しとしている姉貴がいきなり知らない男を呼び捨てにするとは・・・考えてもわからなかったので託されたものを獅朗本人に渡して様子を見てみることにした。
「おーっす。獅朗さん。」
「こんにちわ。路臣。」
ごそごそとジャケットのポケットをまさぐってチョコをつまみ出す。
「これ、姉貴から。」
「姉貴?」
仕事中だと言うのにうっかり姉貴という言葉が出てきてしまった。獅朗は知ってか知らずか、はて?と言う顔をして路臣に目を向ける。
「三課の美云さんから。コーヒーのお礼って言ってた。」
「美云とは姉弟なんですか?」
うっ。そ知らぬ顔で言い直してみたがここでも呼び捨て。なんなんだこの二人は?またまた路臣の脳内にハテナが大きく浮かぶ。
「えっと、遠い親戚みたいなもんです。」
「もしかして、週末、A山で会ってる?」
獅朗には確信があったが、わかりきったことをわざわざ路臣に聞いてみる。
「ええ。実家があの山の麓にあるんで。」
たまに帰って顔見せてあげないと親がうるさいからな。たまたまその話を美云にしたら一緒に行くことになって、姉貴はそこで今俺の目の前にいる獅朗と会って、それからすぐ再会したかと思えば一課からお声がかかって、あろうことか何がなんだかわからないけど二人はお互いを呼び捨てに呼びあってて、そして俺は今、尋問をされてるようでとても居心地が悪い。
「ありがとう。」
「えっ?」
「君の実家があそこに無かったら、一課はてんてこ舞いになるところでしたから。」
それはつまり、姉貴を"仕事のための人材"とだけ思っていると?
「本当にそれだけですか?」
「ええ。それ以外に何かあると?」
食えないな。と路臣は思う。目の前の男は涼しい顔で言い切ったが路臣にはそれだけではないような気がしてならなかった。
なぜならいつもなら涼しいだけの顔をした男がちょっとイラついているように見えたからだ。
美しいものに目がない路臣は子供の頃から他人には無い美意識があり、人の見た目であれば、どんなに取り繕っていようがほんのちょっとの綻びをみつける(もちろん他の人には気づけないほんのちょっとのこと)癖がついていた。
獅朗にも一瞬だったけど綻びが現れたのを路臣は見逃さなかった。美しい顔に現れたほんの少しの怒りのような、苛立ちのような、ほんの一瞬だったから普通の人にはわかるまい。もしかしたら本人も気づいていないのか?そう思い当たるとなんだか楽しくなって、結局、一課を後にする頃には気分は愉快になっていた。
………
獅朗は路臣から受け取ったチョコレートを口に運ぶとゆっくりと味わう。チョコレートは口に入れた瞬間溶けていき、形の変わる様は、山で出会ったぶっきらぼうな美云が実は元バリキャリウーマンだったのと似ている。
同じなのに違う。
彼女は変化を受け入れられるだろうか。いや、受け入れてもらわないとこちらが困る。もう少し圧をかけてみようかと次の戦略を練ることにした。
それにしても・・・つい姉弟なのか?と聞いてしまった己に心の中で苦笑いする。更に路臣は美云の恋人では無かったことに"安心"してしまった己になぜか少し苛ついてしまった。
数秒後、獅朗は路臣に嫉妬していた己の気持ちに気付いた。"嫉妬"なんて感情が自分にあったとは。
そっと、
狼狽したことは言うまでもない。
.........
次話は明日投稿いたします。
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