高卒できなかったわたしは今日も時間が巻き戻る

赤衣 桃

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ルートA

26話目

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「それでは、みずみずしい遺体までエスコートをさせてもらいます。寒くありませんか? 小腹が空いていたら温かいココアやクッキーなどを用意させますが」
「まずはそのポンチョを脱いでもらえない。さっきから生首と会話をしているみたいで怖いから」
「これは失礼」
 周りの景色と同化するポンチョを脱いで、坂田が手で抱えている。
「こちらへ」
 ユニと坂田が旧校舎の方向へと歩き出す。まだ嘔吐おうとを繰り返している山本の姿を立ちどまった彼女が見た。
 これまでの記憶があるならナイトプールの件を覚えていても……今回は忘れているだけか。
 ナイトプールの時は坂田くんと知り合いじゃなさそうだったし、遺体愛好家として楽しむために。
「どうかしましたか? お優しいことで山本くんのことならご心配なく、すぐに薬を用意させますので」
「わたしは優しくないから」
 歩くスピードを上げて横切っていくユニを坂田は追いかけた。



「イフェメラル……あのナイトプールで出会ったことは覚えていますよ。当時と変わらず美しくて可愛らしく、とても刺激的な姿だったのですぐに八雲さんだと分かりました」
 隣を歩くユニの質問に坂田がさらりと答える。満月に照らされた夜道に彼女の履くローファーとコンクリートのぶつかる音がよく響く。
「偶然にしては変じゃない、五人全員がいた気がするんだけど」
「ぼくはなにもしてませんけど。イフェメラルで五人が集まった原因はなんとなく分かります」
 仮説で良いのなら原因を教えましょうか? と坂田に言われたがユニは首を横に振る。
「興味がない。今はみずみずしい遺体に会いたい」
「その件とも関わっているんですがね。こちらもイフェメラルでの八雲さんのこととか聞きたかったり」
 にっこりと笑う坂田を見て、ユニが息を吐いた。

「友達と遊んでいたら、柏木くんと山本くんに犯されただけ。ついでにカホちゃんにも切り刻まれました」
「山本くんはともかく柏木くんも……純粋に八雲さんを好きだったのにワイルドな性格になっていたようで」
 さっき山本くんを見ていたのはナイトプールでの後ろ暗い出来事を覚えていないのが気になったからですか、と坂田がつぶやく。
「記憶をリセットするために山本くんを殺したとか」
「ぼくは一回も手をくだしていませんよ。今の八雲さんみたいに思い出されてしまうと面倒ですから」
 黙ったままでユニが坂田を横目で睨みつける。
「リスクを最小限にしたいと考えるのは当然では。ぼくの仲間の八雲さんならば理解をしてもらえるかと」
「正直に話してくれて、ありがとうございます」
「そもそも殺せば、確実に相手の記憶が消えるわけでもなさそうですし。八雲さんはどうやって思い出したんでしょうか?」

 やっぱり坂田くんは食えないな。こんなことなら大人しく拷問をされたほうが良かったかもしれない。
「たまたま……偶然。坂田くんは?」
「ぼくの場合は最初の肝試しから有用そうな記憶を保持し続けているだけですよ」
「一回も死んでないの」
「死んだかどうか分かりませんが、終着点まで到達してしまい強制的に時間移動をさせられた経験はあります」
「終着点?」
「やっとぼくの話に興味を持ってくれましたか。美しく可愛らしい八雲さんにぞんざいに扱われるのは」
「お世辞はもう良いから」
「事実を並べただけですよ。八雲さんの知りたい終着点の話の前にいくつか確かめさせてほしいことが」
「坂田くんたちのおかげで、わたしも嘘をつくのが上手になっちゃったんだけど」
「別に構いませんよ。性格の悪い嘘つきは今の八雲さんみたいに忠告なんてしてくれませんから」

 ユニが苦々しそうな顔をした。
 嘘をついても意味がなさそうか……だったらもう坂田くんと本当に仲良くなるほうがこちらも利があるはず。
「わたしになにが聞きたいの」
「まずは現在の八雲さんの身長に体重、スリーサイズを教えてくださると」
「真面目な話?」
「はい。他人を笑わせるのは苦手ですし、そもそもぼくは下北さん以外の女性では興奮できないことを八雲さんも知ってくれているかと」
 ある意味で一途だからな……坂田くんは。
「現在のだったら、改めてわたしの身体中を調べたほうが良いんじゃない」
「死ぬのはともかく今までの膨大な記憶の一部を覚えている八雲さんを失うリスクは減らしたいので」
「イフェメラルの時みたいにカホちゃんにわたしをバラバラにさせるわけにもいかないと」
 坂田の表情に変化はなく、ユニに笑顔を向けたまま。

「冗談は今のようなことを言うんですね」
「カホちゃんの独断だったのか」
「知りたいことでしたか。八雲さんの言う通り下北さんが勝手にやってしまったようで……ぼくはみずみずしい遺体に関わらなければ、時間移動から抜け出せるのではないかと考えていましたから」
「結果は駄目だったんだ。それが終着点?」
「説明を最低限にしてくれて助かりました。五人全員が死ぬことなく大体三十歳前後になると強制的に時間移動をさせられ、みずみずしい遺体を見つけようとした数日前になってしまうみたいですよ」
 今の坂田の言葉に違和感があったのか突然ユニが立ちどまる。彼女のいるほうを振り向きながら彼も歩くのをやめた。
 ひんやりとした夜風がユニの短い黒髪を揺らす。
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