そのホラーは諸説あり

赤衣 桃

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ある意味もっとも頭数の多い正解

第1話

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 命をどぶに捨てるようなギャンブルをくり返していたせいか背中に座るマイ先輩と呼ばれる女子生徒が本当に同じ人間なのかと疑ってしまう。
 特殊能力みたいなものをもっているが、やっぱり彼女も一応は人間なのだろう。学校に住んでいるがご飯や睡眠は必要なようだし。
 そのへんの普通の女の子みたいに隣のクラスの彼にほれている情報もあったかな。気の毒なことに。
「へー、じゃあさ……命と同価値のお金をもらっていたりはしないんだ」
「ええ。自分がギャンブルに求めているのはスリルだけでそこまでお金に苦労してませんので」
「それって命懸けのギャンブルに勝ちつづけてきたから結果的にお金に困ってないだけじゃないの?」
「そうですね。今のところは対戦相手しか死んでませんから」
「ふーん」
 マイ先輩にスカートをめくられた。四つん這いの状態なのでこちらはどうしようもない。
「下着は好きな男の子の好みに合わせたりするの?」
「女の子になりたてなので分かりませんね。少なくとも男のときは合わせてなかったかと」
「下着を好きなのは男の子の専売特許だもんね」
 自分よりも命知らずな彼ならつっこんだりするのかもしれないが。
「類似品とはいえユウマくんと同じようにつっこんではくれないか」
 残念そうにマイ先輩は大きく息をはきだした。
「きみのほうがとても正しい反応なのは知っているんだけど、それでもわたしにつっこんでほしかったなー」
「その彼とはいつもそんな風に会話を?」
「地味に主導権をにぎらないでよ。第三者から見ても分かるように今は、わたしのほうが立場が上じゃないといけないんだから」
 こちらから勝手にしゃべるのも禁止とは。本当に彼はどうやってこんな生きものと対等に話せるまで仲良くなったんだろうか、口下手な印象だったし。
「別にユウマくんはなにもしてないよ。そのへんにいる女子生徒と同じように扱ってくれただけ」
 それがハマったわけか。
「返事はしていいよ」
「彼はこわいもの知らずですね」
「少し違うかな。ユウマくんはわたしみたいな存在に慣れているんだと思う」
「妹さん」
「だろうね」
「その彼の妹さんをどうにかしてこいとご主人さまは考えているのですか?」
「ギャンブラーちゃんは物騒だな。そんなことしたらユウマくんに嫌われて、ここにはもう来てくれないかもしれないじゃん」
 そんな可能性がほとんどないことはご主人さまも分かっているはず。
 自分のようにこわがれば下僕にさせられ。
 関係を断ち切ろうとすれば、おそらく殺される。
 彼もそれを分かっているからこそ、ご主人さまとなんとなくの関係を維持している。
「では、ご主人さまは自分になにをさせようと?」
「慌てるなよ。夕方はまだまだ長いぜ」
「できることならはやくしてもらえますか」
「難しいことをさせるつもりはない。ユウマくんと同じように作品の種を提供してほしいのさ」
 ただしギャンブラーちゃんの場合は下手をすると死んじゃうレベルのものだけど。スリルを味わえるから平気だよね、とご主人さまに言われた。
「本当はユウマくんにやってもらう予定だったんだけど、ギャンブラーちゃんとの遭遇で忘れちゃったからもう一回説明するのが面倒くさくて」
「本音は自分がちょうどいい捨て駒だからでは?」
「嫌な言いかたをするなよ。死ぬかどうかはギャンブラーちゃん次第なんだし、自分の実力不足までもわたしのせいにしないでほしいな」
「それは正しいと思いますけど。お気に入りの彼が死ぬかもしれないと考えたからこそ、自分にお鉢がまわってきたのでは」
「あー、死ぬかもしれないというか。ユウマくんはそういう状況になるとすぐに諦める」
「命知らずだからですか?」
「違う違う。どっちにしてもわたしの作品のキャラクターとして登場できるからがんばって生きようとする必要がないだけ」
 そこまでの愛情のようなものを彼がご主人さまに向けているとも思えないが彼女がそう盲信するなら黙るしかない。
 彼とは違って自分はできるだけ長生きしたいし。



 ギャンブルにはイカサマが必要でその勝つための手段を無数に用意してあるからこそギャンブラーと呼ばれるんだと思う。
 死にたくないから死ぬほど脳みそを回転させ生き残るための方法を考えている。彼のような命知らずと友達っぽい関係になっているのは性格が全く違うからか。
「ところでご主人さまは彼のどこが」
「顔」
「面食いなんですね」
「確かにイケてるとは思うけどさ……ユウマくんはなんともいえない表情をしてくれる時があるんだ。マズイ料理と分かりつつ美味しそうに食べてくれるような感じといえば分かるかな」
 やっとこさ向かい合わせで会話をしてくれているご主人さまが自分と彼の縁を引きよせたのやら。
「邪推はやめてほしいな。ユウマくんと仲良しなのはギャンブラーちゃんのせいだろう」
「えと、逆らうつもりはありません」
「だったら変なことは考えないでね。目の前の女のかたちをした怪物をどう殺そうか、とかさ」
「殺せるんですか?」
「勝手に質問するな。次は女の子にするていどじゃなくなるかもしれないぞ」
 セリフの語尾に星マークとかハートマークをくっつけてそうな話しかただけど、ご主人さまのキャラクターではムリがある。
「神さまみたいなセリフですね」
「わたしは人間だよん。心臓にナイフが刺されればあっさり死んじゃうぐらいの」
 本当にご主人さまの左胸にナイフが刺さる。
 正確には自分が隠しもったナイフを彼女の心臓にいくつも命中をさせただが。
 念のために首やのどになん本か投げた鋭利な刃物が貫いたはずなのにご主人さまがまばたきをする。
「うーん、やっぱり椅子のままにしておいたほうが良かったな。制服に穴があいちゃったよ」
 のどに刃物が刺さった状態でご主人さまは普通に声をだす。顔つきも平然としていて、これでも人間だと言い張るつもりなのか。
「はじめてはユウマくんが良かったんだけどなー。さてギャンブラーちゃん、わたしの身体に刺さっている全部のナイフをどうしてほしい?」
「できることならそのままで」
「だーめー。おしおき」
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