女、獣人の国へ。

安藤

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灯す人

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アクセル、ギンと共に獣人階層へ行くことを決意した飛鳥はアパートの自室で荷物をまとめていた。数日分の服や下着、最低限の化粧品などを詰め込んでいれば、まるで旅行にでも行くかのような気分になってくる。

しかし2人に玄関前で待機してもらっているため悠長にもしていられない。ざっと荷物を確認し、アクセルに言われた通り動きやすい服装に着替え足早に玄関にへ向かおうとした。

その時、ふと姿鏡に映る自分が目に入る。

「(……冴えない格好……。)」

ストレッチの効いた安いジーンズにパーカーを着ただけの飾り気のない姿に思わずテンションが下がりそうになる。遊びに行くわけでもないし、おそらく飛鳥の知り合いなど一人としていない場所に行くのだから何の問題もないのだが。それでも、飛鳥は自分の荷物の中にお気に入りのアクセサリーを一つも入れていないことに気づき、急いでアクセサリーケースを開いた。

一番お気に入りのピアスを掴んで手早く装着し、今度こそ小走りで玄関へ向かう。
彼女の耳元で揺れるゴールドのそれが、動きに合わせてキラキラと光った。




「お待たせ!」

ガチャリと音を立てて玄関から出る飛鳥。その視界に入ったのは心配そうにこちらを見てくるギンと不敵に笑うアクセル。

「よし、行くぞぉ。」

そう言って歩き出すアクセルについて行こうとすれば、隣から伸びたギンの腕に掴まれる。

「待って。本当にいいの? このままここにいた方が幸せかもしれないよ?」

彼がなぜそこまで自分を気遣ってくれるのか飛鳥には分からなかったが、少し考えた後、その目を真っ直ぐに見て答えた。

「ありがとう。でも、もう行くって決めたから。」

「……そう。」

その頭から出ている大きな耳を残念そうにパタリと下げられると、居た堪れなくなる。

しかし心を鬼にして足を踏み出し、話を変える。

「ところで、獣人の国? ……には、どうやって行くの? 違う階層……とか言ってたけど。」

「階層同士を繋げることのできるエネルギーポイントがあんのさ。俺たちはそれをポータルと言ってるが、ポータルを渡るには専用のキーが必要で、それがこれだ。」

歩きながら飛鳥に説明するアクセルは、ゆったりとしたズボンのポケットから重厚な装飾が施された鍵を取り出した。
その鍵をプラプラと揺らしながら彼女に見せる。アンティーク調のそれは、雑貨屋などにあっても馴染みそうなただの鍵の置物のようだ。

「なんだか、魔法の道具みたい……。」

「まぁそうだよなぁ。俺も興味ねぇから詳しい作り方とかは知らん。とりあえずポータルはこの近くにあるからこのままついて来な。」

そう言って鍵をポイっと上に投げてからキャッチすると、再び無造作にポケットへと突っ込んだ。
3人は閑静な住宅街を抜けて、どんどん人気のない暗い道へと進んでいく。この辺りはもう飛鳥も来たことのない地域だった。

しばらくすると、再び公園が見えてくる。ただし先ほどまで居た公園とは全く雰囲気が違い、錆びたブランコが置いてあるだけの廃れた公園だ。しかもすぐそばには雑木林があり、今にもブランコを飲み込んでしまいそうなほどうっそうとしている。一言で言ってしまえば少々不気味な公園だった。

しかしアクセルはあろうことかその雑木林へと足を踏み入れた。もちろん抵抗のある飛鳥だったが、仕方なく後をついて行く。雑木林の中を何分か進むと、前を行っていたアクセルがふと立ち止まった。

「ここだ。」

どうやらここが先ほど言っていたエネルギーポイントらしい。

「ここが、ポータル? ……何もないけど。」

そう言いつつ、飛鳥は先ほどまでとは違う雰囲気を確かに感じ取っていた。実際“そこ“には何もないのだが、自分が磁石にでもなったかのように前へ引っ張られる感覚がある。

「見てりゃあ分かる。」

そう言ってアクセルは何もない空間に先ほどの鍵を差し込んだ。すると、空間に水面のような波紋が浮かび上がる。空気が歪んでいるような不思議な様子に飛鳥は呆然とした。その顔を見てニヤリと笑ったアクセル。

「ビビんなよ?」

そう一言、言うだけ言うと唐突にその体を空間の波紋の中に投じた。一瞬で彼の体が水面のような波紋に飲み込まれ消えてなくなる。

「……え!?」

驚く飛鳥にギンが柔らかく微笑んだ。

「大丈夫だよ。普通に歩けばいいから。」

言いながら自然に差し出された右手を、思わず握り返す飛鳥。ごくりと唾を飲んだ彼女を見届けてからギンもその空間に足を踏み入れた。飛鳥は目を瞑り、握られた手の感覚と地面の感覚を頼りに引っ張られるままその空間を抜けた。もっとも、彼女に抜けた時の感覚はほとんどなかったが。

拍子抜けしながら目を開けると、辺りの景色が眼前に広がる。飛鳥は再び声を上げた。

「……え!?」

目の前には海が広がっていたからだ。夜の砂浜をズンズン進んでいくアクセルを一瞥し、ギンが飛鳥に声をかけた。

「歩けそう? 足元悪いから気をつけて。」

「え、あ、ありがとう。大丈夫。」

飛鳥は自分に合わせてゆっくり進んでくれるギンに戸惑いつつも、共にアクセルの跡を追う。

「あの船に俺たちの仲間がいるから、ここからは一緒に船であそこまで行くんだよ。」

あそこ、と彼が指差したのは、海の向こうに見える小さな光の数々。
良く見れば、遠くに島があるのが見える。その島の電気の光がここまで届いているのだ。

しかし飛鳥には気になる事が一つあった。

「待って、仲間がいるって言った? 私たち3人で行くんじゃないの?」

「僕たちのチームは今回4人でここまで来たんだ。毎回、4、5人のチームを作って日本の各地に僕たちのような調査隊が派遣されてる。たぶん船には僕以外の3人がもう戻ってきてるから、僕と飛鳥、それにアイツも入れて6人で出航することになるね。」

アイツ、と言いながらギンはアクセルを見る。
そこで飛鳥はふと疑問に思った事を問う。

「4人で来て、ギン以外の3人が既にいるってことは……アクセルは同じチームじゃないの?」

「アイツは僕たちのような短期調査組じゃないんだ。単身で何ヶ月も日本各地を転々とする長期調査組の1人。長期調査の奴らは、飛鳥のような協力者が見つかった場合、一番近い短期調査チームの船に乗って一時帰国する決まりなんだ。」

調査隊にも短期と長期が分かれており、アクセルは後者なのだ。

「船に着いたら仲間の3人を紹介するよ。」

そう言って進んでいくギンの後ろを、飛鳥はドキドキしながらついていくのだった。


❇︎


船に着くと、上から梯子が投げられた。
中型の船でそれほど大きくはないが、飛鳥が飛び乗るには不可能な高さだった。
梯子を登り切るとフード付きの外套を顔まで被った大きな男が飛鳥を見ていた。
その顔は暗闇とフードのせいでよく見えない。

飛鳥が何か話そうとしていると、船の手すりにトン、と何かが乗る音がした。

横の手すりを見れば、ギンがそこに乗っている。
飛鳥は混乱した。なぜならギンは飛鳥が登り切るまで下にいて、登り終わって間髪入れずに手すりに現れたからだ。

そんなことは、驚異的なジャンプ力でここに飛び乗らない限り不可能だろう。

「え……ギン……まさか、……飛んだ?」

あまりに現実離れしているが、そうとしか考えられなかった。

「うん。」

ギンはさも当然のように答える。

「あぁ、獣人とか半人はんじんならこれくらい普通だよ。飛鳥もそのうちできるようになるかもね。」

冗談を交えながら言うギンに飛鳥は言葉を無くす。
どうやら人間と獣人の身体能力は月とスッポンほどかけ離れているらしい。

"半人"というのが何を指す言葉なのか飛鳥は分からなかったが、今はそれよりも先ほどから彼女を見ている大男が気になった。

そちらをチラリと見れば、男がゆっくりとフードを外す。

そして彼の顔を見て、飛鳥は更に驚いた。
月明かりに照らされたその顔が、虎そのものだったからだ。

「ようこそ獣人階層へ。私はジャック。よろしく頼む。」

虎の顔にウェーブがかった金の髪がさらりとかかっていた。

飛鳥は失礼にならないようできる限り驚きを隠したまま、ニッコリと笑って挨拶をする。

「猿飛飛鳥です。よろしくお願いします。」

平静を装ったまま、ジャックに差し出された手を握り返す。
手のひらにフサフサとした毛の感触が当たり、少しだけ緊張がほぐれた。

「見てわかると思うけど、ジャックは虎の獣人なんだ。今回の調査では僕達のリーダー的存在だよ。」

ギンが後ろから話しかける。

「へぇ、そうなんだ。」

当たり障りない言葉を返すだけで精一杯の飛鳥。

「ビオラ! ロア! 集まれ!」

唐突にジャックが大声で誰かを呼んだ。
その声に体を固くすると、飛鳥の周りに人影が2つ現れる。
1人は船の中から出てふらふらと歩いてきた。
もう1人は上の見張り台から飛び降りてきたらしい。

彼らがそれぞれフードを外す。
1人が溌剌はつらつと話し出した。

「私は狼のビオラ! よろしくね!」

狼そのものの顔にショートウルフヘアの女性だ。
彼女は飛鳥に本物の笑みで微笑んだ。

「飛鳥です。よろしくお願いします。」

飛鳥はまたしても偽物の笑顔を貼り付けた。
そのことにどこか罪悪感を覚えていると、もう1人が挨拶をしてきた。

「蛇のロアだ。よろしく。」

彼は人の顔をしているが、首元から覗く鱗のようなものがキラキラと青緑に輝いている。
アクセルの鱗よりも小さなそれが蛇らしさを醸し出していた。

飛鳥が挨拶をしようとするも、彼の一言に遮れる。

「じゃあ。」

そう言って、ロアはふらふらと船の中へと戻っていった。
呆然とする飛鳥にギンがフォローを入れる。

「ごめん、ロアは人間階層に行くといつも体調不良になるんだ。機嫌が悪いわけじゃないから許してやって。」

その言葉に、"確かに顔色が悪かったな"と思う飛鳥。

「ギン、碇を上げたらしばしの間舵を頼む。ビオラは帆を張れ。」

テキパキと指示を出して行くジャックは、少し離れた場所にいるアクセルへと向き直る。

「アクセル! 長期調査の後で悪いが船を手伝ってくれ。1人動けんのでな。」

「おー、任せとけ。」

そして彼らが各自動き出したのを確認すると、ジャックは飛鳥を見やった。

「少し私と話をしよう。」

そう言って、ジャックは甲板の先端へと歩いていく。
飛鳥もそれに続いた。

潮風を感じながらしばしの沈黙が2人を包む。
それを破ったのはジャックだった。

「君は感情を隠すのが上手だな。先ほど私を初めて見た直後の、驚きを隠した笑顔は見事だった。」

「……あ、ごめんなさい。失礼でしたよね。」

「気にするな、初めて我々を見てあの態度が取れる人間はなかなかいない。悲鳴をあげるものも少なくはないからな。君のその技術は君の力になるだろう。」

「クセみたいなものなんです。本当はもう自分を隠したくなくて、だからここに来たんです。本当の自分で生きて、誰かの役に立つために。」

「……そうか、君も"灯す"人だったか。」

「……"灯す"……?」

「私が思うに、人間も獣人も、結局のところはみな同じなのかもしれない。みな、"己という炎"を灯すために生きている。己が涙で湿けた薪だと分かっていても、ちっぽけで古いマッチ棒だとしても、それを灯さずにはいられない。何度失敗しても、何度諦めても、結局のところやめられないのだ。」

「そう、かもしれません。……私もたぶん、今日初めてその炎を灯したいと思ったんです。」

「そうか。……君が、君の炎を灯すために我々と闘いたいと思ってくれるなら、私は協力を惜しまない。いつでも頼ってくれ。」

ジャックの言葉に、肩の力が僅かに抜けるのを感じた飛鳥。
彼女は頭の片隅にあったある疑問を思い出し、それをジャックに問う。

「……あの。そういえば、半人……って何のことですか?」

「む? 半人とは、アクセルやロアのような人間の特徴を強く持って生まれてくる半人半獣のことだ。私やビオラのようなものを獣人という。」

獣人と、半人半獣。
それらは似て非なるものらしい。
動物そのものの顔をしている者たちを獣人、人間の姿形に獣人の特徴を少し持って生まれてくる者を通称"半人"と呼ぶ。

「…じゃあ、ギンも半人なんですか?」

「いや、ヤツは獣人だ。」

「……? でも、人間の特徴が強いですよね……?」

少々混乱する飛鳥だったが、ジャックは詳しく話すつもりはないらしい。

「そこはヤツ自身に聞くと良い。」

「……? そうですか。」

素直に頷く飛鳥に、ジャックが話を続ける。

「もともとは獣人階層には獣人しかいなかった。しかし近年、獣人の半人化が進んでしまっている。半人は体の弱い者が多い。このままではいずれ我々は絶滅してしまうだろう。それを防ぐために、人間階層と獣人階層を繋げようと試みているのだ。二つの階層を繋げることで獣人階層のエネルギーは活性化し、獣人の子が増えるだけでなく、半人も体が丈夫になると専門家は見込んでいる。」

「アクセルから少し聞きましたが、人間階層にもメリットがあるんですよね? 一体どんなメリットが?」

「自然が増えて人間の寿命が大幅に伸びるだろう。」

「すごい……一体どんな原理で……。」

「獣人階層のエネルギーが作用するのだ。逆に人間階層のエネルギーも、先ほど言ったように我々に良い形で作用する。」

「不思議ですね。」

そう呟く飛鳥に、ジャックはほんの少し微笑んだような表情を浮かべる。

「エネルギーの話は話せば長くなる。またの機会にしよう。君と話せて良かった。私は舵に戻る。」

そう言うと、彼はローブをひるがえしながら舵を取りに戻って行った。



❇︎


飛鳥はジャックが去った甲板で、遠くに浮いている島を見つめていた。
これからどんなことが起こるのか、彼女はワクワクしながら息を大きく吸い込む。
日本の空気より少し冷たく、澄んでいるのが分かった。

「ルタルガに着くのは、まだまだ先だよ。」

ジャックと入れ替わりで舵取りから戻ったギンがこちらに近づいた。

「ルタルガ?」

「獣人の国の国名。ルタルガ王国って言うんだ。」

「王国なんだ。」

「そう。」

飛鳥に微笑むギン。
彼は独特な八の字の眉をしているせいで、その笑みが普通の笑みなのか悲しみを携えたものなのか分かりづらい。

「……ねぇ、違ってたら悪いんだけど。私たち、どこかで会ったことあったっけ?」

「……。どうして?」

「初対面のわりにギンが私にあまりにも優しいから、知り合いだったかな?……と思って……。」

「……。」

悲しそうにも無表情にもとれる顔をするギンに飛鳥はなんとなく居心地が悪くなる。

「……ごめん、忘れて。」

笑いながらそう言えば、ギンがこちらを向いて再び微笑んだ。やはり悲しみを孕んでいるのかただの微笑みなのかが分からない。飛鳥は困惑した。

「どこかで会ったことはあるかもね。僕は何回も今日みたいに短期調査に来てるし、すれ違ったことがあったとか。」

「ギンみたいに耳と尻尾の生えた人、一度見たら絶対忘れないと思うんだけど…。」

「僕、人に化けれるから。ほら。」

そう言うと、みるみる彼の耳と尻尾が小さくなり、仕舞いには消えてなくなってしまった。

「……え!? それ、もしかしてみんなできるの!?」

「まさか。僕のは特異体質みたいなもん。本当の姿には、滅多にならない。」

そう言うと、彼は耳と尻尾を元に戻した。

「…あぁ、なるほど…。ジャックさんが、ギンは獣人だって言ってたの、そういう事だったんだ。」

「……聞いたんだ。」

ギンの声がやや低くなったことに飛鳥は気付いたが、気づかぬふりをして会話を続けた。

「うん。どういう事なのかよく分からなかったけどね。」

「たぶん飛鳥の想像通りだよ。僕は狐の獣人。本当の姿は別にある。軽蔑する?周りを騙して姿を隠してること。」

彼はこちらを伺うようにして聞く。

「なんで? っていうか、みんなギンが獣人って知ってるんでしょ? なら騙してるのとは違うよ。」

「それは…そうだけど…。」

「……。…見た目とか年齢って、ただの記号だと思うんだよね。この人はこういう人っていうのを、ぱっと見で分かりやすくするための記号。大事なのは、記号の内側でソイツがどんなこと考えてるかじゃない?」 

「記号の内側…。」

「ギンは記号を複数持ってるだけ。今の私には、それ以外のことはよく分からないけど。」

「……そんな考え方、したことなかった。」

「まぁ……その内側を100パーセント知り得ることも不可能だからこそ、記号の方が大事っていう考え方もあるかもしれないけどね。」

「……確かに。」

どこか吹っ切れたような様子のギンが、言葉を続けた。

「僕は、本当は人間の姿が1番好きだけど、あれは体力食うからいつもこの姿なんだ。……自分の本当の見た目が、嫌いだから。」

語尾を小さくさせながら話すギン。

「……。ふうん。別に良いんじゃない? 見た目くらい、好きにさせてよって感じだよね。私がいた職場なんて、みんな同じ格好で働くのよ? 馬鹿みたいだった。」

「ふふ、飛鳥はよく頑張ったんだね。」

「そうかな……、どうだろう。頑張ったかな。」

「きっと頑張ったんだよ。」

「ありがとう。」

社会人になってからというもの人に褒められることなど滅多に無くなった飛鳥にとって、その言葉は彼女の心を温めるには十分だった。

「僕は船の中に戻るけど、飛鳥は?」

「私はもう少しここに居る。」

「分かった。冷えるから少ししたら中に入るんだよ。」

「うん。」

頷いた飛鳥を見届けると、ギンは船内へと歩いていった。


❇︎



船内にギンが入ると、アクセルが彼を待ち伏せしている。

「……おい。お前、あの女をどうするつもりだ?」

2人の間にピリピリとした空気が漂った。

「何の話だ。」

ギンは飛鳥と話していた時とは比べ物にならない程の冷たい瞳でアクセルを見た。

「とぼけんじゃねぇよ。あれだけ普段と態度が違えばこっちも薄々勘づくってもんだ。」

「……。」

「狐の坊やが何を企んでるかは知らねぇが、お前の本性を知ったらあの女はどんな顔するかな?」

わざと挑発して楽しんでいるらしい目の前の男に、ギンの眼光は鋭さを増してゆく。

「僕の邪魔をするな、龍族。」

「はん。お前があの女に何もしなけりゃな。」

ギンは冷たい瞳のまま、船の奥へと消えるのだった。
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