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2章

ディメンション・スクール(30)

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「ミャ~~ン」
しばらくすると、猫の鳴き声がして、部屋の入り口を見ると、薄暗がりに二つの小さな光りが見えた。
「猫? 猫の目?」
わたしが言うと、マスターがこたえた。
「エルミタージュで猫を飼っているって聞いたことがあるな。館内のネズミを退治するためらしいよ」
光る二つの目がわたし達にゆっくりと近づいてくると、毛の長いふんわりした猫だとわかった。
猫はわたしの前に来ると、ピョンとわたしの膝の上に飛び乗って、丸くなって座った。
「あはっ。あったかい。少ししたら、潤ちゃんの膝の上に載せるね」
「いいよ。ずっと美優ちゃんの膝の上で。ぼくは寒くないから」
「ありがとう。いつもわたしを優先してくれて」
ほっこりした気持ちになって、わたしは言った。
「ハハッ」
マスターは照れたように笑った。
「美優ちゃんこそいつもカフェを手伝ってくれてありがとう。カフェが明るくなって助かるよ」
「へへっ」
マスターに改めてそう言われて、わたしも照れくさくなった。

「あらっ」
急に膝の上の猫が起き上がり、わたしの膝の上から床に飛び降りた。
「パタパタパタ」
音がして、猫はその音の方へ走って行った。
「あのスズメだ」
マスターが声を出して立ち上がった。
窓から差し込む建物の外のライトアップの灯りに照らされたスズメがわたしの目にも見えた。スズメはワールドマップをくちばしにくわえたまま、部屋のなかを飛んでいる。
猫が何回かスズメに向かって飛び上がると、スズメのくちばしからワールドマップが床に落ちて、スズメは隣の部屋へ飛んで行った。
「よかった。これで日本へ帰れる」
マスターがマップを床から拾い上げて言った。
わたしも椅子から立ち上がって、マスターのそばにいる猫を抱き上げて、抱きしめて言った。
「ありがとう。よかった~」
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