上 下
32 / 62
2章

ディメンション・スクール(1)

しおりを挟む
「ええっ! ムーンリバー君もそうなの?!」
カフェのカウンターでマスターは驚いた顔をしてムーンリバーさんに言った。
「も、って、ほかの人達も同じこと言ってます?!」
そう返したムーンリバーさんも「えっ!」といった顔だ。
わたしも同様、びっくりだった。
というのも、最近、カフェに来る作家さん達がそれぞれ同じようなことを経験しているのだ。自分が書いている小説のなかに足を踏み入れ、別次元へ行ってしまい、小説のなかの登場人物やシーンなど小説にまつわる物、ことが現実の世界で具現化しているらしい。一歩家を出ると、小説の登場人物やシーンが目の前に次々に現れて、仕事場や家に入ったり、いつもの知っている人と会うと元の次元に戻るという。

ムーンリバーさんが今日、自宅からこのカフェに来るあいだにも、ウェザー・プロテクト商品会社(夏の暑い日にかぶると暑ければ暑いほど頭がひんやりする帽子や強風の日に着ると風が着ている人をよけてくれるポンチョなど、天候から人を守ってくれる商品を開発、製造し、販売もしている会社)で商品開発をしている小説の主人公の男性が車道に停めてある車に乗り込むシーンとそっくりな場面が目の前に現れたそうなのだ。ムーンリバーさんは驚いたと同時に思わず駆け寄ってその男性に「がんばれよ!」と声をかけたくなったそうだ。その主人公は今、新しい商品のアイデアが浮かばず悩んでいて、車でほうぼうリサーチに出かけているからだそうだ。
しおりを挟む

処理中です...