その付喪神、鑑定します!

陽炎氷柱

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プロローグ

01.採寸式

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「以上で七瀬雪乃ななせゆきのさんの『制服採寸』は終わりです。今日はお疲れ様でした!」


 着替えではずしていた眼鏡をかけて、受付のお姉さんから入学案内を受け取る。

 この四月から、私は中学一年生になる。
 頑張って受験勉強して、ずっと憧れていた『英蘭学園中等部』というかなり有名な私立に無事合格したんだ。
 英蘭学園はエスカレータ式の学校で、初等部は基本お金持ちの子たちしか入れないけど、中等部からは私みたいな一般家庭の子も入学できるようになる。
 その分試験はほんとうに難しかったけど、私はどうしても小学校の知り合いが一人もいないところに行きたかったから……。


「採寸って学校でやるものだと思ってたけど、さすがはお貴族様の学校ね。アンタ、本当にそんなトコでやってけるの?」


 小学校で上手く馴染めなかった私はママのその言葉にあいまいに笑った。
 幸い、私がいじめられていたと知らないママはそれ以上何かを言うことはなく、さっさと制服のお支払いを済ませていた。


「せっかくだからママは買い物していくけど、雪乃はどうする?」


 制服採寸の会場になったここは有名な百貨店で、私がよくいくデパートと商品の値段が何倍も違う。品揃えもいいし、ここで新学期に必要なものをママと見ていくのもいい考えだと思う。

 だけど私は少し迷って、やっぱり自分の趣味を優先することにした。


「私は三階の工芸展に行く!」


 工芸品は一つとして同じものはなく、同じ名称でも細かな違いが必ずある。私はそれ見つけるのがとにかく好きで、何時間でも見ることができるんだ!


「アンタはほんとにそういうのが好きね……。分かったわ。あまり遅くならないようにね」


 こういう百貨店でやってる展示会に出されている物は、見るだけじゃなくて買い取ることもできる。私には見ることしかできないけど、博物館とはまた違ったラインナップが楽しめるのだ。
そうして、ワクワクしながら出口に向かうと。


「はあ、とうとうわたくしたちにもこの憂鬱な時がきましたね」


 背後の採寸スペースの方から、少しとがった声が聞こえる。結構大きな声だったから、つい振り返ってしまうと、凄く派手な服を着た女の子が何人か固まっていた。


「より多くの方と交流をするためらしいけど、正直特待生でもない一般の方と仲良くしてもねぇ?」
「ええ、英蘭はただの平民が来ていい場所じゃないのに。わざわざ外部からお勉強なんてしてまで受験してくるなんて、身の程知らずで恥ずかしいこと」


 そういうと、彼女たちはクスクスと私の方を見て笑った。
 あの子たちとは面識ないから最初は気づかなかったけど、明らかに私を意識している。外部と言っていたから、彼女たちは初等部から英蘭学園に通っているお嬢様なんだろう。
 ああいうの、選民意識って言うんだっけ。自分たちは特別な存在で、それ以外を見下したりする考え方だよね。人のことを知ろうともしないで、勝手に意見を押し付けるのって最低なことだと思う。
 でも、私はそれを言わなかった。
 だって彼女たちは私個人というより、外部生全員が認められないという感じだった。ならわざわざ言い返して目を付けられるより、さっさとこの場を離れた方が良い。せっかく誰も私のことを知らない学校を選んだのに、またハブられちゃうのはいやだ。
 私がなるべく自然に見えるように、そっと彼女たちから目をそらした時だった。
 入口の方が少しざわつき、女の子たちは顔を赤らめて色めき立つ。


「桜二(おうじ)様よ!同じ時間帯に当たるなんて、運がいいわ!」


 さっきと打って変わって可愛らしい声で話す彼女たちだが、私も思わず息が止まりそうになった。
 だって、思わず見とれてしまうくらいに素敵な男の子がそこにいたんだもの!
 蜂蜜色の髪は柔らかそうで、瞳は透き通るような青。背もすらっと高くて、ぜんぜん同じ年だとは思えなかった。外国から来た子もいるなんて、やっぱり英蘭学園ってすごいな。


(それにしても王子様は凄いあだ名だけど)


 みんなの視線を集めているのに、金髪の子は気にした様子もなく堂々と採寸スペースに向かっている。
そして嫌味を言っていた子たちの前を通ったとき、恐ろしいほど綺麗な笑顔を浮かべた。


「びっくりした。ずいぶん元気な声だったから、まさかうちの生徒とは思わなかったよ。内部生として恥ずかしくないの?」
「……っ!」


 話しかけられたと浮足立った彼女たちは一瞬で青ざめる。歯に物を着せぬ物言いに、聞いている私ですら思わず悲鳴がこぼれそうだ。
 しかし金髪の男の子はそれだけ言うと、まるで何事もなかったように採寸スペースに入っていく。何というか、見た目と合わずけっこうはっきりとした人だ。


(よし、今のうちに離れよう)


 心の中で金髪の男の子にお礼を言いながら、私はそそくさとその場から離れた。
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