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第五章 おもい
48.妨害せよ
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蔵の中で反響しているおかげか、換気口を通して中の声を聞くことができた。
「邪魔をするな!私にも千代さまの遺産を手にする権利があるのよ!」
ちょうど葵さんの金切り声が聞こえて、びくりと肩が跳ねる。
「おかしいでしょ!私は千代様に一生かけて尽くしてきたのに、死んだら次は奥様に仕えてねってふざけてるの!?餞別に少しくらいは金よこしなさいよ!」
「葵さん、あんたはあくまでも使用人だ。ちゃんと給料ももらっているのに、それ以上を望むのは違うと思うな」
「ええ、金持ちの坊ちゃんには分からないでしょうね!私は金持ちになるために一条家で働いてるのに!」
もう少しかがんで、中の様子を見る。骨董品や付喪神たちにさえぎられてよく見えないが、だいたいの状況を掴むことはできた。
(葵さんを追い詰めたんだ!)
桜二くんと颯馬くんは、二人で挟むように葵さんを囲んでいた。
「一条家はそんな人生逆転できる場じゃないのは、他の古株を見ればわかるはずだ。出世したいんなら一条の系列で社員として働いた方がいい」
「はあ?馬鹿正直に働いてる奴らがなんて知らないわよ。私は楽して金持ちになりたいの。坊ちゃんのようにね!金は腐るほどあるんだから、少しくらいいいじゃない!」
葵さんのあけすけな言葉が胸に突き刺さる。
颯馬くんは葵さんを信用していたみたいだし、私なんかよりもずっと傷ついているだろう。
「理由次第じゃ見逃そうって考えてたけど、その必要はなさそうだね」
「警備員にはもう連絡してある。後のことは父さんたちが決める」
話にならないと判断したのか、颯馬くんたちは顔を見合わせてうなずいた。
だが颯馬くんが一歩動いたその時、葵さんは気がふれたように突然笑い出した。
「あっはははは!そう、私はこれでおしまいなのね。金も、信用も、全部なくなって……はは、」
一見脱力しているだけのように見えるが、颯馬くんは本能的に何かを感じ取ったのかピタリと立ち止まる。
直後、葵さんはすばやくエプロンのポケットに手を突っ込み何かを取り出した。
(ライターと……あの紙切れ!)
颯馬くんはそれを見ると慌てて手を伸ばすが、葵さんが紙に火をつける方が早かった。
その火の明かりが見え瞬間、私は迷わず消防システムを起動させた。
(間に合って!)
瞬間、天井にあるスプリンクラーから水が勢いで放出された。
紙に着いた炎はすぐに消え、これほど水がまき散らされればもう火が付くことはないだろう。
(ブルーシートがあるけど、骨董品が濡れないといいな……)
まだ止まらない水の中、桜二くんが慌てて地面に転がっている寄木細工を回収しに行くのが見えた。カメラが入っているから、水でダメになるのを回避するためだろう。でもひとまず、これ以上危ないことはなさそうだ。
「くそ、センサーの反応が早いじゃない!」
換気口から離れて立ち上がろうとしたその時、葵さんが再びポケットに手を伸ばすのが見えてしまった。
そこから取り出された物を見た瞬間、私の頭は真っ白になってしまった。
(あれは……ナイフ!?)
葵さんは火をつけるだけにとどまらず、折り畳みナイフまで用意していたらしい。どんなつもりで使う予定だったかは分からないが、今その切り先は颯馬くんに向けられていた。
それを認識瞬間、私はほとんど反射で叫んだ。
「颯馬くん、避けてっ!」
「邪魔をするな!私にも千代さまの遺産を手にする権利があるのよ!」
ちょうど葵さんの金切り声が聞こえて、びくりと肩が跳ねる。
「おかしいでしょ!私は千代様に一生かけて尽くしてきたのに、死んだら次は奥様に仕えてねってふざけてるの!?餞別に少しくらいは金よこしなさいよ!」
「葵さん、あんたはあくまでも使用人だ。ちゃんと給料ももらっているのに、それ以上を望むのは違うと思うな」
「ええ、金持ちの坊ちゃんには分からないでしょうね!私は金持ちになるために一条家で働いてるのに!」
もう少しかがんで、中の様子を見る。骨董品や付喪神たちにさえぎられてよく見えないが、だいたいの状況を掴むことはできた。
(葵さんを追い詰めたんだ!)
桜二くんと颯馬くんは、二人で挟むように葵さんを囲んでいた。
「一条家はそんな人生逆転できる場じゃないのは、他の古株を見ればわかるはずだ。出世したいんなら一条の系列で社員として働いた方がいい」
「はあ?馬鹿正直に働いてる奴らがなんて知らないわよ。私は楽して金持ちになりたいの。坊ちゃんのようにね!金は腐るほどあるんだから、少しくらいいいじゃない!」
葵さんのあけすけな言葉が胸に突き刺さる。
颯馬くんは葵さんを信用していたみたいだし、私なんかよりもずっと傷ついているだろう。
「理由次第じゃ見逃そうって考えてたけど、その必要はなさそうだね」
「警備員にはもう連絡してある。後のことは父さんたちが決める」
話にならないと判断したのか、颯馬くんたちは顔を見合わせてうなずいた。
だが颯馬くんが一歩動いたその時、葵さんは気がふれたように突然笑い出した。
「あっはははは!そう、私はこれでおしまいなのね。金も、信用も、全部なくなって……はは、」
一見脱力しているだけのように見えるが、颯馬くんは本能的に何かを感じ取ったのかピタリと立ち止まる。
直後、葵さんはすばやくエプロンのポケットに手を突っ込み何かを取り出した。
(ライターと……あの紙切れ!)
颯馬くんはそれを見ると慌てて手を伸ばすが、葵さんが紙に火をつける方が早かった。
その火の明かりが見え瞬間、私は迷わず消防システムを起動させた。
(間に合って!)
瞬間、天井にあるスプリンクラーから水が勢いで放出された。
紙に着いた炎はすぐに消え、これほど水がまき散らされればもう火が付くことはないだろう。
(ブルーシートがあるけど、骨董品が濡れないといいな……)
まだ止まらない水の中、桜二くんが慌てて地面に転がっている寄木細工を回収しに行くのが見えた。カメラが入っているから、水でダメになるのを回避するためだろう。でもひとまず、これ以上危ないことはなさそうだ。
「くそ、センサーの反応が早いじゃない!」
換気口から離れて立ち上がろうとしたその時、葵さんが再びポケットに手を伸ばすのが見えてしまった。
そこから取り出された物を見た瞬間、私の頭は真っ白になってしまった。
(あれは……ナイフ!?)
葵さんは火をつけるだけにとどまらず、折り畳みナイフまで用意していたらしい。どんなつもりで使う予定だったかは分からないが、今その切り先は颯馬くんに向けられていた。
それを認識瞬間、私はほとんど反射で叫んだ。
「颯馬くん、避けてっ!」
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