カテキミ ~if 家庭教師は正義と君の味方~

つきの麻友

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第三章 嘘の幸せと真実の絶望と

52 鳴らない電話04

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 水曜日、空の雲行きは怪しかったが、心の中はまるで恋人の連絡を待つかのように期待しながら業務をこなし一日を過ごした。

 だが今日も連絡はなく俺の期待は裏切られたのだが、思いがけないところで曜子に会いに行く口実ができたのだった。

 それは夕方、事務所に訪れた相変わらず男の俺が見てもイケメンだと納得する私立探偵の豚平《ぶたひら》さんが口実と言う名のペンダントを届けにきたのだ。

「ごめんね遅くなって。分析は早くに出来てたんだけどね、思ってた通りだったよ」

 ソファにコーヒーを淹れてくれた梓さんが最後に座って四人でテーブルに置かれたペンダントを眺めた。

「驚いたよ。まさかとは思っていたけど本当に月の欠片《かけら》だったよ」

 月の欠片という名の石かと思ったが本物だと豚平《ぶたひら》さんは言った。

 本物ということと、本物だと分析できる豚平《ぶたひら》さんの二つの事に驚きを隠せなかった。

「ちょっとね」

 そんなことできるのですかと尋ねた俺に対して、笑顔で答える豚平《ぶたひら》さんは自慢するわけでもなく、サラッと言う姿に只のバイセクシャルなイケメンと思っていた俺の印象は消え失せた。

 所長があの時信頼してペンダントを預けさせるわけだと納得した。

 豚平《ぶたひら》さんが言うには随分昔から存在していたのではないかと言うのだ。約三千年前という言葉には正直簡単に受け入れるわけにはいかなかったが。

 例えば石が地球に落ちてきたのが約三千年前なら話がわからないでもないのだが、石の加工部分を分析した結果、つまり加工してから約三千年と言うのだから信じ難い。

 それに石の素材が月の物ってこと。何故月の石が地球にあるのか。あとは仮に数千年前の物だとしても曜子の御先祖様が代々受け継いできたのが本当なら国宝どころの騒ぎじゃないんだが。

「石の種類自体は月ではそんなに貴重な種類ではないんだけどね。加工から読み取れる約三千年前っていうのが本当ならこの石の歴史が貴重ってことだよ」

「歴史を紐解くことは難題だが、何かの力が働いて肉眼で"W"が見えるようになったということだな」

 決して冗談で言ってる様子はないのだが、話が飛躍して未だに信じられないでいた。

 ペンダントだけなら長い歴史の中で渡り渡って曜子の御先祖様の手に渡るのも可能性はあるが、鏡も一緒にあるというのが偶然ではないということで話は纏まった。

 豚平《ぶたひら》さんは鏡も見て分析したいと言ったが、流石に鏡もってなると素直に「ハイ」と持ち出すこともできる大きさでもないし、曜子も不安がるだろう。今のところ危険が及んでいるってわけでもないので鏡は諦めてくれた。

 これは僕の想像の範囲内なのだがと豚平《ぶたひら》さんは前置きして持論を述べた。

 つまり、古来より魔物から身を守るために月の欠片が使用されていたと言うのだ。俺たちは"W"を倒す為に特殊な眼鏡でその存在を確認して成敗している。逆転の発想で現代の"W"のような古来の魔物の存在を月の欠片で確認して身を隠していたのではないだろうか、ということだった。

 確かに魔物の確認ができなければ魔物に殺される、戦う術が無いのなら逃げて身を隠す。どちらも眼で認識できれば出来ることだ。

「あの神話か……」

「僕もそれを思っていたんだよ。だとしたら後一つ……」

 神妙な顔つきの二人の会話を遮るように外で雷が鳴り雨が本格的な夏の到来を知らしめた。
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