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第六章 窓から見えた月は、二人を優しく照らしてくれている

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 所詮、自分は知り合って間もないあやかしに過ぎない。

 傍にいた者が目を離した隙に不安が襲い掛かり、今までの異端のあやかしとして孤独だった過去がフラッシュバックしてきたのか。

 俺達は出会わなければ孤独のままだったのに、出会ってしまったから孤独に戻ることに躊躇をして恐怖に変わる。

 だけど雪実、このままいけば取返しのつかなくなる私生活に新しい舵を取ってくれたのはお前なんだよ。

 イメチェン生活はまだ始まったばかりだし、何の恩返しも出来ていないのに見捨てるはずなんてないんだよ。

 日本人は特に受けた恩義は死んでも忘れないというのを教えてあげないといけないな。

 けどいつか、雪実の目的が果たされるということは俺と天野さんが付き合うということ。

 そうなったら俺達は一緒に住んでいられないんだよ。

 その日が近いのか永遠に来ないのか誰にもわからないけど、雪実はまた孤独になっていくのだろうか。

 部屋に入ると月の光が部屋の中を照らしてくれている。

 電気のスイッチに伸ばした手は、衝撃を感じた為に役目を終える前に止まった。

 雪実が背中から手を回して強く抱きしめてきていたからだ。

「……怖かったよ……。また独りになったのかと思って怖かったよぉ……」

 抱きしめている腕に力が更に入る。顔を背に埋めてゆっくり左右に振るのは何故だろうか。

 あやかしが人と共に生きていることが異例なのに、いざ一緒に住み始めると寂しさが紛れてしまったのか。これまでの人とあやかしの関係に反している自分の感情を否定している、認めたくないのか。

 窓から見えた輝く月は優しく俺達二人を見守ってくれているような気分にさせてくれた。

「大丈夫だよ、雪実……。独りぼっちなんかにさせて何処にも行かないよ」

「……うん」

 呟くように返事をしたまま二人は暫し微動だにしなかった。

「……嘘つき……。天野さんと付き合えたら……わらわはまた独りぼっちになるのに……」

「ハハ……、そりゃぁまぁ……なんというか……ハハ」

 この状況で核心を突かれると、雪実相手でもなんだか気を使って返事を選んでしまう。

 堪らず部屋の電気を点け中に入り、雪実から距離を取る。すると手にしていた荷物を置いた時に自分が買った物を思い出した。

「こっちにおいでよ、雪実」

 玄関で立ち竦んでいる雪実を手招きで呼ぶ。

 ちょっとセンチになっていたのに、明るい部屋に強制的に切り替えられて気持ちの整理がまだついていない様子。ちょっと唇を尖らせて素直になれない感じでゆっくりと靴を脱ぎだした。
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