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第七章 社員食堂の霹靂にコマりました

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「あぁ、その後連絡とかないの?」

 おっとぉ、まるで連絡があるか気にしたような素振り、だけどあのあやかしは成敗したから連絡あるはず無いのを知ってるからこそ言えるんだけど。次だ、次の会話を今のうちに考えるんだ。

 お礼を言われて終わりじゃ始まらない。かと言って何かご馳走って誘ってくれるとは限らないから逆に誘うか? それは図々しいな。いや、それを自然に言えるようにしなきゃ。じゃあなにかプレゼントされたら? それで終わりじゃないか。考えろ考えろぉ。

「ないよ。磐石君のおかげだね、有難う」

「どういたしまして」

 素晴らしい流れだ。一人で考えてちゃんと会話成立できたぞ。脳内での妄想を控え、受け答えをする。天野さんを変に意識せず普通を装って。

「……」

「……」

 二人の会話は一時中断して箸が動く。終わり? いかん! いかんぞ。お礼を言われるのは想定内。それを利用して次に繋げなきゃ今後こんなチャンス巡ってこないぞ。探せ、会話を探すんだ、俺。

「髪型変えたんだね。イメージ変わって似合ってるよ」

「……あ、ありがと」

 不意を突かれた! そうか、髪型変えたんだった。もう一ヶ月以上になるから忘れてたしちょっと伸びて無様なんだけど。似合ってるって言われて予想外なお褒めの言葉に返事が遅れた。だが有頂天になるなよ、これはお世辞だ、いや天野さんなりの無言を労わって探してくれた会話と受け取るんだ。次は俺が何か喋ってあげないと、そうだ。

「天野さんも髪切った?」

「え? 切ってないよ」

「ですよねー」

 やってしまった。女性の変化に気付かないのは致命的だ!

「会ったの先月だしね。私も美容院行きたかったけど来年になっちゃうな」

「今度はどんな髪型にしたいの?」

「うーん、思い切ってバッサリ切っちゃおうかなぁ」

「天野さんならどんな髪型でも似合うよ」

 毛先を指でクルクルしながら天野さんは言った。どんな髪型にすると言っても最後に言うセリフはトレンディードラマで培ったセリフを用意していた。

 ただあのドラマ、この後上手くいかなかったのだが、あれは話の都合上の問題だと思っている。

「磐石君、誰にでもそうやって言ってるんでしょ?」

「え?」

 難聴か? 俺は難聴になったのか? いや聞こえたぞ、内容も分かったぞ。ただ理解するのにある程度の時間を要し思わず聞こえていないかのような返答になってしまう。

「ないないない、誰にも言った事ないよ、天野さんが初めて人生で最初で最後だよ」

 コップに入った水を一気に飲んだ後、慌ててしまったが大げさでもなんでもなく本当の事を言ったが信じてもらえるだろうか。
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