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第九章 運命のイブまで毎日がイブイブ

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「風邪気味だと?」

「そうなんです。昨夜コタツで寝てしまったのが原因で、朝から液体が止まらないんですよ」

「ロマンティックは?」

「ロマンティックは止まってます」

 直属の上司である緩井ゆるい係長に朝礼が終わってから個別に相談をしているところである。

 懐メロが好きな係長はこうやって独自のジョークを絡めてくるが、あまり皆の評価は芳しくない。

 火曜日。まさか前日に天野さんとクリスマスイブ忘年会の二次会約束から、二十四時間も経たないうちに体調不良になるとは浮き沈みが激しすぎる気分になる。

 少しだけ鼻声だが、鼻の周りが赤くなっているのを見たら仮病じゃないことがわかってもらえるだろう。

 もうティッシュで鼻をかむのも痛いほどになる。

「熱はあるのか?」

「計ってないんですけど、市販の薬を飲んでるので今は大丈夫ですが、ただ明日悪化するかもと」

「明日は段取りしとくからこれたら出勤してくれると助かるよ。けど無理して長引くよりか明日だけで治ると助かる。あと鼻水のことを液体って言うのは止めろ」

「すいません。様子見ますが今日は頑張ります。液……じゃなくて鼻水は栓しときます」

 緩井係長は社員に優しすぎるくらいおっとりしている。だからできる限り迷惑かけたくなく協力したいのだが、風邪では周りにうつすと余計に迷惑だ。

「気持ちが緩んでるから風邪引くんだよ」

 出たよ那智瀬なちせ課長。昨日の今日でここぞとばかりに突っかかってくる。

「気力で風邪が治るといいんですけどね」

「この年末の忙しい時に迷惑だとわからんのか」

「明日の人員の段取りは私がこれからしますので……」

 昔ながらの気力で病気にならないって精神論。大事かもしれんがもう時代は流れているんだしそれ、パワハラだぞ。課長はパワハラが日常的になってるから麻痺しているのだろうけど、係長に訴えられたら即アウトだぞ。

「当たり前だろ。部下が休むのは上司の責任だからな!」

 理不尽というか、前日に言って明日の支障が少ないようにしてるのだからそこまで言わなくても。責任が自分にあるから係長には申し訳ない気持ちになる。

    ※

「顔、熱いよぉ!」

 水曜日。やはり熱が上がってきた。

 昨日は定時まで頑張ったが残業はせずその足で病院に行き、薬を貰ってきたのだが。

「やっぱり今日は会社休むよ」

「そうだね。食欲無くてもお粥作ってあげるから、それ食べてお薬飲んで寝よう」

 病気になると気弱になり、元気に身の回りの事をしてくれる人が頼もしく思うっていうのは本当だったんだな。今の雪実が逞しく見える。

    ※
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