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第十章 二人だけのイブの始まりに

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「フハハハハ!  そして俺は今こそダークナイトに堕ちる!」

「その手を伸ばして何しようとしてんのよ、お兄ちゃん」

 ララァ!  私を導いてくれ!  後ろから雪実の声が聞こえ、詩織さんの胸に伸ばしている手が止まる。

「いやぁぁぁ、風邪引かないか心配でねぇぇぇ」

「覗かないでって言ったでしょ!」

「雪実のシャワーシーンは覗いてーないよー」

 声が裏返りながらも必死で言った。振り替えるとバスタオルを身体に巻いた雪実が仁王立ちでいた。

「天野さんの寝てるところを覗かないでって言ったの、ちゃんと返事したじゃん聞いてなかったの?」

「お、おぉ。だから風邪を……」

「生乳がどうとか言ってたじゃん」

「ナマハゲの聞き間違いかなぁ?  クリスマスイブだし……」

「もう日付変わってクリスマス本番よ」

「あ、じゃあメリーナマハゲ、なんつって」

 雪実はネックハンギングで俺の首を絞めてきた。

「このエロヲタクめ!」

「ぐ、ぐるじいぃ」

 力が抜けたところでヘッドロックをかまされる。

 本日二回目?  日付変わったから一回目か。バスタオル越しに雪実の生乳が当たっているが、今それを伝えるのは自殺行為ではないか議論の余地がある。

「女の子が酔って寝てるところを襲うって最低の男がすることよ!」

「まだ襲ってないし」

「まだってどういうことよ!」

 よりヘッドロックに力が入る。雪実がペチャンコパイだったらあばら骨で負傷していただろうが、雪実の胸にボリュームがあることを伝えるのもヘッドロックがより強力になるのではないか議論の余地がある。

「天野さんのおっぱい触ろうとしてたんでしょ!  しかも生で!  っさいてー!」

「ぐぬぬぅ」

 反論の余地がない。図星だからだ。しかも雪実、先日お前にも同じことをしようとしたのだが、寝てる姿を見て未遂になったんだぞ。そんなお兄ちゃんを褒めてくれないか?  くれないよね。このヘッドロックは先日の未遂に終わったお前の乳も揉もうとした罰なのか。さすれば甘んじて受け入れるしかあるまい。

「ぐるじいぃよぉ」

 本当に苦しくて雪実が巻いていたバスタオルを掴んだ手に力が入る。

「本当に反省しなさいよ」

 呆れた口調で雪実はやっと解放してくれた。

「身体拭いてたらなにやらブツブツ言ってるんだもん、まさかってお兄ちゃんを信じた雪実がバカだったわ」

 それで急いで出て来たってことか。

 俺の妄想速度では一秒程度の時間しか要してない筈だったのに、通常よりもスローモーションで声に出してたってことか?      やっぱり酔ってる時はろくなことがないな。

 それともダークナイトになる寸前、間一髪で救われたって取るべきなのだろうか。
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