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第十一章 夜明けのホワイトクリスマス

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「正直今回はやられたかなぁって半分諦めたわ」

 カオル君のスマホに保存されている画像を見ながら鼻息が荒くなっていた。

「うそ……だろ」

 これは俺の推しの声優が演じていた魔法少女を完全再現したコスプレ。

「スマホも繋がらないし同僚なんて信頼の壁をクリアしてるからガードもいつにも増して緩んでるだろうし」

 ヒラヒラのミニスカートに黒系のストッキング。詩織さんの黒系ストッキングが多いのはここから来てたのか?

「何と言ってもクリスマスイブだったしね」

 こんな実際の生活ではミニすぎるだろうという短さを実際に穿いてるなんてチラリズムフォーエバーを擽っている。

「あぁ詩織のバージンは永遠に私のものだって思ってたのに」

 しかもこのアングルこれ最高、一体誰なんだこれを撮影したのは。

「ちょっと聞いてんの?」

「聞いてないよ、こっちが聞きたいよ誰だよコレ撮ったの」

「コレ? だから元彼のカメラ小僧よ」

「あの野郎……見たことないけどヲタの喜ぶ角度を極めているな」

「まぁ腕は良かったみたいだけどね、アイツが興味あるのは被写体であって詩織じゃなかったのよ。だから一方的に別れ切り出して他のレイヤー推しとか許せないわ」

 元彼が関わっているものは全て消去したいところだが、この画像はお宝にしなければなるまい。

 一緒に見ていた雪実が尋ねる。

「カオル君さんは男役のコスプレが多いのね」

「さんは要らないから。」

 デコ助野郎! と脳内で叫ぶ。実際に言って意味を理解してくれなければしばかれそうだが。

 電話が鳴ってからさっきまで、心穏やかじゃなかったのだが今は脳内ヲタクモードになってしまっている。

 現実逃避とはまた違ってくるが、常に二次元と三次元の間で浮遊しているような精神状態はヲタク特有なのだろうか? それとも個人差があって俺が稀なのか。

 大多数に属しているからといってそれが普通なのかと問われるなら、普通とは何たるかを説明して欲しいものだ。双子であろうと同じ人間はこの世に二人といないのだから、それぞれ個性がある。

 その個性をまとめて普通というカテゴリーに納めるのは納得がいかない。ただ、現実の問題から逃避するように二次元に逃げる癖はなんとかしなければならないのかもしれないが。

「うわ!」

 驚いた俺は身体がふわっと浮いた。

 扉を少し開け、顔を半分覗かせている詩織さんが目に入ったからだ。

「お、起きてたの? おはよう……」

「詩織! 心配してたんだから!」

 俺の驚きにビクッとしたカオル君も振り向き、起きてきた詩織さんに近づいて抱きしめた。熱い朝の挨拶であった。

「えっとぉ、思い出しながら整理してるのだけどぉ、また酔いつぶれて明君のお世話になった所にカオル君が迎えに来てくれたってことで会ってるのかなぁ?」

「大体会ってる。さぁ帰ろう」

「まぁ顔でも洗って、コーヒーでも飲んでゆっくりしていきなよ」

 雪実の案内にコクッと頷いた詩織さんはカオル君の持ってるメイク落とし等持って洗面所に行くのを見て、コーヒーの準備をした。

 すっぴんで髪もボサボサで現れた詩織さんだったが、特に違和感もなく恋が冷める様子もなかったのは、普段から薄化粧なのかなと自己解決をする。

 コーヒーを一口飲み、美味しいと言ってくれた事が妙に嬉しかったのは、朝という時間に一緒の空間で飲めたことが理由の一つだったのだろう。
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