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第十三章 ひとりぼっちの温泉旅行

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「何事ですか女将」

「なんだこのガキ!」

 何処にでも頭が悪く考えるより先に汚い言葉が出る者が居るのものだ。大抵一番にやられるキャラだろうから俺も例に漏れず顔を覚え一番に退治することを決める。

「いえ、この方達が貸し切りにするから私達に出て行けと仰るんですの。他のお客様もおられますしと断っているのですが……」

 他のお客様とはまさしく俺のことだろう。しかも無料招待券片手に間抜け面して来たのだが。

「女将、ここは俺が話つけておきますから、トメさんの手伝いをしてて下さい」

「けど……」

「大丈夫大丈夫。これくらい朝飯前ですよ」

 本当に朝食食べる前なのが笑える所だ。さっさと退治して美味しい朝食を頂きたいものだ。

 女将を半ば強引に食堂の方へ送り出し、あやかし連中と対峙する。対峙した後退治するのだけど。

「ぷっ」

「何が可笑しい!」

 まさか自分のオヤジギャグで笑った等と例えあやかしにも言えない。

「とりあえず外に出ろ。玄関じゃ他のお客に迷惑だ」

「他に客なんていないだろうに!」

「居るわけないぜ!  ワーハッハッハッ」

 あやかし連中が俺を指差して笑い者にする。

 いやいや、ギャグじゃないし。けど確かに他の客はいないんだうけどそんなにウケる事でもないだろう。

「俺達にビビって客なんか来なくなってんだろ?  テメーもなにバカ面下げて来てんだ、さっさと荷物まとめて帰って寝てろ」

「ワーハッハッハッ!」

 一同バカウケである。

「ど、どういうことだってばよぉ?」

「俺達の親分は暴君でな。以前からこの旅館が気に入っているんだ。嫁も見つけたってことだからさっさと出て行け」

「そんなこと言ったって、ここはまだ営業しているんだぞ!」

「だからぁ、そこは俺達のリーダーが頭を使ってだなぁ一年前から俺達が客を脅して今はもう閑古鳥が鳴いている状態だろ? 騒ぎを起こさずに手に入れれるってことよ。まぁ俺は暴れて騒ぎを起こしても問題ないんだがな」

 説明キャラというのは便利で重宝する。最初の威勢の良い雑魚キャラと言いあやかし連中も数が揃うとそれぞれキャラの役目を果たしている。

「お喋りが過ぎますぞ」

「へへ、いけねぇや」

 新たに玄関から入ってきた者に叱られ説明キャラは小さくなって後ろに下がった。

「うちのバカがご無礼な事を言ったかもしれませんが概ねは合っていますのでご了承ください」

 おっとりとそのあやかしは言うが、キツネ目の奥には冷たい眼差しが光っていた。コイツが冷血でリーダー格であるのは間違いなく俺は嫌悪感を持った。その理由の一つにイケメンだったからなのは言うまでもない。

 あやかしの癖にイケメンになんか化けやがって、雪実の様に元からイケメンだったのか? 狒々の様に不細工選手権連覇の顔みたいな正体でこんなイケメンに化けていたなら許さんぞ。

「そんな事言ったって簡単に明け渡せる筈ないだろう!」

「困りましたね。本当はまだ予定ではなかったのですが嫁候補が見つかったので急遽親分もこちらに移動されているんですよ。到着までにこの旅館を根城にしておかないと私達が八つ当たりされますのでそれだけは回避せねばならないのです」

 確かさっきの奴も暴君とか言ってたが。そんな理由で明け渡せる筈ないだろうに。

 それにしてもコイツらあやかしの癖に一年前から計画的に進めているとは。どうりで貸切状態で浮かれる日々が多い筈だ。だが、意図的にこの旅館を閉鎖に運んだのは許せることではない。

「お前等絶対に許さないからなぁ!」

「おやおや人間風情が何を言っているのでしょうか?」

 キツネ目のあやかしが余裕をかましている間に玄関に神輿が入ってきたので、出そうと思った矢を一旦納めた。

「親分とのご対面はここの大広間を使います。気に入ればそのまま子造りに励んでもらいますので」

 ニヤケた顔を見せながらキツネ目のあやかしは、神輿に近寄ると簾を捲って中の嫁候補と言われる者を見せてきた。

「どうです、アナタも気に入りましたか? きっと酒呑童子様もこのあやかしを気に入ってくれるはず! さぁ、さっさとこの旅館を明け渡せ! ここを拠点に酒呑童子様の子孫を反映させ全国統一を目指すのです!」

 天を仰ぎながら両手を広げ、悦に浸っているキツネ目のあやかしは興奮したのか数本の尻尾が生えてきた。

 邪悪な妖気が体中から溢れ出て、それに釣られたように周りのあやかしも人の姿から各々あやかしの姿に変化していった。

 神輿の中に閉じ込められたあやかしを見て自分の目を疑った俺は、即座にあやかし退治に切り替えられなかった。

 そこには、猿轡をされ身体を縛られた雪実が居たからだった。
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