生徒会長閣下は多忙につき、令嬢の私とはなかなか会ってくれませんが......

尋近

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観覧会の日②

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夕暮れが近づき、観覧会の熱気も次第に落ち着きを見せ始めていた。
吹奏楽部の演奏が一曲を終えると、拍手が中庭に広がる。
私は人波の中で立ち尽くし、遠くに見える会長の姿を探していた。

――また今日も、言葉を交わせないまま終わってしまうのだろうか。

そう思った瞬間、視線の先で会長が歩みを止め、こちらへと向かってきた。

「アシュベル嬢」
呼ばれただけで胸が跳ねる。
「少し……歩きませんか」

差し出された言葉に、私は戸惑いながらも小さく頷いた。

* * *

人混みを離れ、中庭の端をゆっくりと歩く。
足元には小さな白い花が並び、風がバラの香りをさらっていく。

「この一帯は、僕が入学した頃から変わらない景色です」
会長の低い声が、静かな夕暮れに溶ける。
「ここでよく本を読んでいました。賑やかな場より、こういう場所のほうが落ち着くので」

そんな姿を想像すると、胸が温かくなる。
完璧で近寄りがたい会長が、ひとり静かに過ごしていた情景――それが自分だけに語られたようで、心がくすぐられた。

「学院生活には慣れましたか?」
「はい。まだ学ぶことは多いですが……」
「焦る必要はありません。あなたには、あなたの歩幅があります」

言葉だけでなく、その声音にさえ安心感が宿っていた。
彼がいると、世界が少しだけやわらかくなる気がする。

やがて会長は立ち止まり、私を見つめた。
藍色の瞳に夕暮れの光が映り、いつもより柔らかに揺れていた。

「……あなたが編入してくれて、嬉しい」

その一言が落ちた瞬間――。
夕暮れに沈みかけた中庭が、まるで一斉に色づくように見えた。
花々の赤はより鮮やかに、風に揺れる緑はやわらかにきらめき、
遠くの吹奏楽の旋律さえも、私だけのために流れているように感じられる。

胸が熱く、視界が滲む。
世界が優しい光で満ちていくようで、呼吸をするのも忘れてしまいそうだった。

返事をしようと唇を開いたけれど、声は出なかった。
ただ必死に微笑み返すことしかできなかった。

会長は、風に目を細めるようにして、しばし言葉を発さなかった。
その沈黙さえも心地よく、私には特別な時間に思えた。


少し離れた場所で、人影がこちらを見ていた。
赤い髪のカミル――。
彼は一瞬だけ表情を曇らせ、それから何事もなかったかのように視線を逸らす。
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