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第1話 転生に気付くの遅すぎた
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「このクエストが終わったら俺は冒険者を引退する」
俺、レノ・ノクターはそう言って一枚の依頼書をギルドの受付嬢であるフィオちゃんの前に差し出した。
「……え?本気ですかぁ?」
俺も今年で三十三歳。十五歳で冒険者になってから今まで危険な冒険を繰り返してきたことで、膝だけじゃなく腕にも腹にも矢を受けてきた俺の体はボロボロ。
つまり俺の冒険者としての生活はもうこれまで。残りの人生は親父の跡を継いで、家業であるポーションの瓶磨きをやりながら生きていくと決めた。
「本気だとも。そろそろ腰を据えて落ち着きたいと思ってさ。心配してくれてありがとね」
「あ、いえ、引退するのは別にどうでもいいんですよぉ。それよりもこの討伐依頼、レノさんには難しくないですかぁ?」
そっちの「本気ですか?」だったらしい。でもそれはさすがに心外だ。
「難しい? そんなことないぞ。だってこの依頼はE級向けだけど、俺はC級だし」
とは言っても冒険者のランクはFからAまであり、俺はその真ん中。つまり普通。超普通。だいたいC級で頭打ちになる冒険者が多いから、一番人数が多いまである。これが命懸けの冒険をして来た俺の限界。
「でもぉ……最近のレノさんは簡単な採取依頼しかやってませんよね? それにお腹も出てるので、魔物相手に俊敏に動けるとは思いませんよぉ?」
確かに最近腹が出てきた。階段を上がれば息が荒れるしな。だけど俺くらいの冒険者なんて他にもいるから気にする事でもないだろう。
「大丈夫だって。あ、戻ってきたらご飯でも行かない? 俺の引退記念に」
「おととい来やがれです~。最後の依頼頑張ってくださ~い」
「あ、はい」
ギルドから出る時のフィオちゃんの天使の笑顔と他の冒険者の同情の視線が痛かった。
「さてと、ぱぱっと終わらせて酒場に行くか」
財布の中身と貰う予定の成功報酬を合わせればそれなりに贅沢はできる。いつもは安いスープのセットで済ませてるけど、今日は肉も頼もう。それも少し厚いやつだ。討伐目的のソルトバードを少し多めに狩って持ち込めばそれも焼いて貰える。
そんな事を考えながら久しぶりの討伐依頼の為に森の中へと入って行った。
◇
◇
◇
「ふーっ、はーっ、や、やばい。マジでやばい。まさかここまで動けなくなってるとは……」
討伐するはずのソルトバードから逆に討伐されそうになり、逃げて逃げて逃げまくって小さな洞窟の中に身を隠す。
体は汗だくで呼吸も乱れ、全力疾走したおかげで脇腹には激痛がはしる。
痛みを抑えるために腹に手を当てると、脂肪の塊に手が埋まっていく。
「俺はここまで太っていたのか……」
確かに腹に肉が付いてきたのは自覚していた。だけどここまでとは思っていなかった。全盛期の引き締まっていた体が懐かしい。
「だからってここで諦めるわけにはいかない。これが俺の冒険者としての最後の仕事なんだ。せめてこのクエストは完遂してみせる!」
そう意気込み、踏み出した足に力を入れた。
「あびゃあ!」
そして転び、壁に頭をぶつけた瞬間全てを思い出した。自分が元日本人だったこと、事故によって死んだことを。
「俺、異世界転生してんじゃん……。つーかこの歳で気付くなんて遅すぎだろ!」
そう叫んだ瞬間、目の前が真っ白になり意識を失った。
「ん……んん?」
目が覚めた時、上も下もない不思議な空間に俺は座っていた。
目の前には体に布を巻いただけの綺麗な女の人が手を合わせて目を閉じ、祈るかのような格好で立っている。
『ごめんなさい。あなたは女神である私のミスにより、本来起こるはずのない事故によってその命を失ってしまいました。そのお礼という訳ではありませんが、新たな世界で新たな命を与えました。そして、この世界で生きていくための力を──』
そこで目を開けた女神の目が俺の姿を見て更に見開く。
『あ、あれれ? なんか老けてる……。おっかしいな? 産まれてすぐに来たと思ったんだけど……』
おいコラ、老けてるとは失礼だな。
俺、レノ・ノクターはそう言って一枚の依頼書をギルドの受付嬢であるフィオちゃんの前に差し出した。
「……え?本気ですかぁ?」
俺も今年で三十三歳。十五歳で冒険者になってから今まで危険な冒険を繰り返してきたことで、膝だけじゃなく腕にも腹にも矢を受けてきた俺の体はボロボロ。
つまり俺の冒険者としての生活はもうこれまで。残りの人生は親父の跡を継いで、家業であるポーションの瓶磨きをやりながら生きていくと決めた。
「本気だとも。そろそろ腰を据えて落ち着きたいと思ってさ。心配してくれてありがとね」
「あ、いえ、引退するのは別にどうでもいいんですよぉ。それよりもこの討伐依頼、レノさんには難しくないですかぁ?」
そっちの「本気ですか?」だったらしい。でもそれはさすがに心外だ。
「難しい? そんなことないぞ。だってこの依頼はE級向けだけど、俺はC級だし」
とは言っても冒険者のランクはFからAまであり、俺はその真ん中。つまり普通。超普通。だいたいC級で頭打ちになる冒険者が多いから、一番人数が多いまである。これが命懸けの冒険をして来た俺の限界。
「でもぉ……最近のレノさんは簡単な採取依頼しかやってませんよね? それにお腹も出てるので、魔物相手に俊敏に動けるとは思いませんよぉ?」
確かに最近腹が出てきた。階段を上がれば息が荒れるしな。だけど俺くらいの冒険者なんて他にもいるから気にする事でもないだろう。
「大丈夫だって。あ、戻ってきたらご飯でも行かない? 俺の引退記念に」
「おととい来やがれです~。最後の依頼頑張ってくださ~い」
「あ、はい」
ギルドから出る時のフィオちゃんの天使の笑顔と他の冒険者の同情の視線が痛かった。
「さてと、ぱぱっと終わらせて酒場に行くか」
財布の中身と貰う予定の成功報酬を合わせればそれなりに贅沢はできる。いつもは安いスープのセットで済ませてるけど、今日は肉も頼もう。それも少し厚いやつだ。討伐目的のソルトバードを少し多めに狩って持ち込めばそれも焼いて貰える。
そんな事を考えながら久しぶりの討伐依頼の為に森の中へと入って行った。
◇
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「ふーっ、はーっ、や、やばい。マジでやばい。まさかここまで動けなくなってるとは……」
討伐するはずのソルトバードから逆に討伐されそうになり、逃げて逃げて逃げまくって小さな洞窟の中に身を隠す。
体は汗だくで呼吸も乱れ、全力疾走したおかげで脇腹には激痛がはしる。
痛みを抑えるために腹に手を当てると、脂肪の塊に手が埋まっていく。
「俺はここまで太っていたのか……」
確かに腹に肉が付いてきたのは自覚していた。だけどここまでとは思っていなかった。全盛期の引き締まっていた体が懐かしい。
「だからってここで諦めるわけにはいかない。これが俺の冒険者としての最後の仕事なんだ。せめてこのクエストは完遂してみせる!」
そう意気込み、踏み出した足に力を入れた。
「あびゃあ!」
そして転び、壁に頭をぶつけた瞬間全てを思い出した。自分が元日本人だったこと、事故によって死んだことを。
「俺、異世界転生してんじゃん……。つーかこの歳で気付くなんて遅すぎだろ!」
そう叫んだ瞬間、目の前が真っ白になり意識を失った。
「ん……んん?」
目が覚めた時、上も下もない不思議な空間に俺は座っていた。
目の前には体に布を巻いただけの綺麗な女の人が手を合わせて目を閉じ、祈るかのような格好で立っている。
『ごめんなさい。あなたは女神である私のミスにより、本来起こるはずのない事故によってその命を失ってしまいました。そのお礼という訳ではありませんが、新たな世界で新たな命を与えました。そして、この世界で生きていくための力を──』
そこで目を開けた女神の目が俺の姿を見て更に見開く。
『あ、あれれ? なんか老けてる……。おっかしいな? 産まれてすぐに来たと思ったんだけど……』
おいコラ、老けてるとは失礼だな。
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