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僕の正体
2伝 貴方は貴方の食べるものでできている。
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「離せよ!」
荒っぽく兵士に捕まれて、真っ白の廊下を歩かされる。勿論背と首には僕の命を握る物が添えられて。
それでもなんとか抵抗しようとするが、兵士だけあって鍛えられてるのか、ただの高校生の僕の力では全く動かない。少しずつ少しずつ歩いていくと張り紙が見えた。
「区域 Level.1
指示のない扉の開放を禁ず。」
Level.1も何も知ったことではないが、その張り紙が恐ろしく見えたのはこれから自分自身がその謎とやらで実験をさせられるからだろう。どれほど危険なのか、考えたくもないがどうしても頭をよぎる。
それから少し歩くと左右に3つずつと突き当たりに扉がある部屋にたどり着いた。
「さぁ、最初の部屋は君から向かって右の1番手前にあるドアだ。張り紙をよく見てから入るといい。」
再び男の声が聞こえてきた。
兵士に顔を捕まれて強制的に張り紙を見せられる。
「貴方は貴方の食べた物でできている。
収容No.000023」
文字の上にはカップラーメンの写真が載っていた。
「…はぁ????」
「どうしたのかね、お腹は空いていないかい?」
男のにこやかな声が聞こえる。
「こんなのが実験?謎?なのか?ただのカップラーメンが?」
「そうだとも。今回の実験は君がカップラーメンを食べることだ。」
その声とともに部屋に押し込まれた。
真っ白な部屋の真ん中に真っ黒の台座があり、その上には空っぽのカップラーメンの容器が置いてあった。
「…空じゃないか。」
「ふむ、今はね。とりあえずその容器を持ってみたまえ。」
正直どんな実験をされるのかと思ってみれば、カップラーメンの容器を持たされるだけか。そのためにこんな危ない装備まで付けさせられたのか、となんだかやるせない気持ちになった。
とりあえず言われた通りに空の容器を手に取る。吸い付くように手に容器がフィットした後、どうしたことか、右手には箸が現れ、容器の中にはたっぷりのカップラーメンが現れた。
「…えっ?」
「どうだい?未知を味わった気持ちは。不思議だろう?」
確かにこれは不思議だ。どうしてこうなったのかも検討がつかない。
「まぁ、とりあえず食べたまえ。味は保証しよう。」
言われたままに一口食べる。
「ん!!!!これは…」
正直に言うと美味しすぎた。今まで食べたどんなカップラーメンよりも美味しく、一度食べてしまえばきっとこれ以外は考えられない。海鮮の出汁がスープの中にしっかりと味を残していて、麺にスープがよく絡む。
「美味い!」
あっという間に食べ終えてしまう。正直食べ足りない。こんなカップラーメン一個では高校生の胃袋を満たすことはできない。あと2、3個は食べられる気がする。
僕は汁まで飲み干して、一息ついた。
しばらくこの余韻を味わいたい。
すると僕をこの部屋に連れてきた兵士が気をきかせて水の入ったコップを隣に置いてくれた。ありがたくいただく。
「どうだい?おいしかっただろう?」
「おいしかったけど…。本当にこれが実験なのか?正直おいしいものを食べたってだけなんだけど。」
「そうだね、今は確かにそうだ。ほら、腹が減っては戦はできぬと言うだろう?とりあえずお腹を一杯にしたまえ。ほら、2杯目だ」
そう言われてみればカップラーメンは再び一杯になっていた。またあの味を味わうためにがっつく。やはり美味しい。
食べ終わる頃にはまた水をもらう。
しばらくするとまた一杯になったカップラーメンが現れたので、また食べる。水をもらう、食べる、水をもらう、食べる…
ふとおかしなことに気がついた。
「あれ?お腹が膨れない…それどころかお腹が空いている気がする。一体なぜ?さっきから食べ続けてるはずなのに…」
すると男の甲高い笑い声が響いた。
「君は馬鹿だな!初めに実験といったじゃないか!被験体は君でこれは実験なんだよ。言うまでもなく君の感じているものはその怪異が起こす現象さ。ほら、もう一杯だ。」
目の前にはまた、一杯のカップラーメンがあった。
「そんなこと言われて誰が食べ…!!」
男の言うことに警戒心を持った僕はカップラーメンを投げ捨てようとした、が、できない。掌にまるで磁石のように引っ付いていて取れない。さらには、捨てようとしているにもかかわらず右手は麺に向かって伸ばしそうになっている。
「一体これはどういう…!!」
言っている間に一口口に入れられてしまった。吐き出そうとするが、吐き出せない。体が勝手にラーメンを食べ始める。抵抗できない…
「その怪異はね、貴方は貴方の食べた物でできている。と言ってね。容器に触れた者が最も美味しく感じられるラーメンを作り、永遠に食べさせ続けるという怪異だ。」
ラーメンを食べる箸は止められないままに男の恐ろしい話を聴かせられ続ける。
「今から20年前、東京都のある民家で発見された。引きこもりだった息子をみかねた母親が息子の家を訪ねた。するとどういうわけか、息子はカップラーメンを一心不乱に食べ続けていた。
それだけでは何ら不思議なことはない。よほど美味しい物なんだろうと放置して終わりだ。
しかし、それだけでは終わらなかった。
何と彼はその母親が見守っている間ずっとそのカップラーメンを食べ続けていた。みかねた母親が何度止めようとしても止まらない。それどころかペースは増す一方でね。
呆れた母親はしばらく彼を放っておくことにして、近所のスーパーに野菜を買いに行ったそうだ。カップラーメンだけでは身体に悪いと。
そこでふと思った。息子はあんなに痩せていただろうかと。
君は質量保存の法則を知っているかい?高校で習う範囲だ。聞いたことぐらいはあるだろう。
何かが生まれるにはそのためにエネルギーが必要だ。
では、君に聴こう。
そのカップラーメンは何でできていると思う?」
「ま、まさか」
「そうさ。君の栄養だ。」
男は興奮気味に続ける。
「でも悲しいかな。ラーメンへの変換には多少のロスが生じる。そのロスが今君が痩せ細っている原因だ」
言われてハッとした。
元々そんなに太っている体質ではなかったが、それでもおかしい。ズボンがそのままにしてしまっていてはずれ落ちそうなほどに、ズボンが緩んでしまっていた。
「安心したまえ、ズボンはベルトで固定させよう。君、ズボンを上げてやってくれ。」
違う、そうじゃない。
答えようとするが麺が邪魔してうまく言葉が出ない。
「とまぁ、今回のこの怪異に関してはこんなところか。」
そういうと男は声を切った。
その後僕は食べ物の中で餓死した。
荒っぽく兵士に捕まれて、真っ白の廊下を歩かされる。勿論背と首には僕の命を握る物が添えられて。
それでもなんとか抵抗しようとするが、兵士だけあって鍛えられてるのか、ただの高校生の僕の力では全く動かない。少しずつ少しずつ歩いていくと張り紙が見えた。
「区域 Level.1
指示のない扉の開放を禁ず。」
Level.1も何も知ったことではないが、その張り紙が恐ろしく見えたのはこれから自分自身がその謎とやらで実験をさせられるからだろう。どれほど危険なのか、考えたくもないがどうしても頭をよぎる。
それから少し歩くと左右に3つずつと突き当たりに扉がある部屋にたどり着いた。
「さぁ、最初の部屋は君から向かって右の1番手前にあるドアだ。張り紙をよく見てから入るといい。」
再び男の声が聞こえてきた。
兵士に顔を捕まれて強制的に張り紙を見せられる。
「貴方は貴方の食べた物でできている。
収容No.000023」
文字の上にはカップラーメンの写真が載っていた。
「…はぁ????」
「どうしたのかね、お腹は空いていないかい?」
男のにこやかな声が聞こえる。
「こんなのが実験?謎?なのか?ただのカップラーメンが?」
「そうだとも。今回の実験は君がカップラーメンを食べることだ。」
その声とともに部屋に押し込まれた。
真っ白な部屋の真ん中に真っ黒の台座があり、その上には空っぽのカップラーメンの容器が置いてあった。
「…空じゃないか。」
「ふむ、今はね。とりあえずその容器を持ってみたまえ。」
正直どんな実験をされるのかと思ってみれば、カップラーメンの容器を持たされるだけか。そのためにこんな危ない装備まで付けさせられたのか、となんだかやるせない気持ちになった。
とりあえず言われた通りに空の容器を手に取る。吸い付くように手に容器がフィットした後、どうしたことか、右手には箸が現れ、容器の中にはたっぷりのカップラーメンが現れた。
「…えっ?」
「どうだい?未知を味わった気持ちは。不思議だろう?」
確かにこれは不思議だ。どうしてこうなったのかも検討がつかない。
「まぁ、とりあえず食べたまえ。味は保証しよう。」
言われたままに一口食べる。
「ん!!!!これは…」
正直に言うと美味しすぎた。今まで食べたどんなカップラーメンよりも美味しく、一度食べてしまえばきっとこれ以外は考えられない。海鮮の出汁がスープの中にしっかりと味を残していて、麺にスープがよく絡む。
「美味い!」
あっという間に食べ終えてしまう。正直食べ足りない。こんなカップラーメン一個では高校生の胃袋を満たすことはできない。あと2、3個は食べられる気がする。
僕は汁まで飲み干して、一息ついた。
しばらくこの余韻を味わいたい。
すると僕をこの部屋に連れてきた兵士が気をきかせて水の入ったコップを隣に置いてくれた。ありがたくいただく。
「どうだい?おいしかっただろう?」
「おいしかったけど…。本当にこれが実験なのか?正直おいしいものを食べたってだけなんだけど。」
「そうだね、今は確かにそうだ。ほら、腹が減っては戦はできぬと言うだろう?とりあえずお腹を一杯にしたまえ。ほら、2杯目だ」
そう言われてみればカップラーメンは再び一杯になっていた。またあの味を味わうためにがっつく。やはり美味しい。
食べ終わる頃にはまた水をもらう。
しばらくするとまた一杯になったカップラーメンが現れたので、また食べる。水をもらう、食べる、水をもらう、食べる…
ふとおかしなことに気がついた。
「あれ?お腹が膨れない…それどころかお腹が空いている気がする。一体なぜ?さっきから食べ続けてるはずなのに…」
すると男の甲高い笑い声が響いた。
「君は馬鹿だな!初めに実験といったじゃないか!被験体は君でこれは実験なんだよ。言うまでもなく君の感じているものはその怪異が起こす現象さ。ほら、もう一杯だ。」
目の前にはまた、一杯のカップラーメンがあった。
「そんなこと言われて誰が食べ…!!」
男の言うことに警戒心を持った僕はカップラーメンを投げ捨てようとした、が、できない。掌にまるで磁石のように引っ付いていて取れない。さらには、捨てようとしているにもかかわらず右手は麺に向かって伸ばしそうになっている。
「一体これはどういう…!!」
言っている間に一口口に入れられてしまった。吐き出そうとするが、吐き出せない。体が勝手にラーメンを食べ始める。抵抗できない…
「その怪異はね、貴方は貴方の食べた物でできている。と言ってね。容器に触れた者が最も美味しく感じられるラーメンを作り、永遠に食べさせ続けるという怪異だ。」
ラーメンを食べる箸は止められないままに男の恐ろしい話を聴かせられ続ける。
「今から20年前、東京都のある民家で発見された。引きこもりだった息子をみかねた母親が息子の家を訪ねた。するとどういうわけか、息子はカップラーメンを一心不乱に食べ続けていた。
それだけでは何ら不思議なことはない。よほど美味しい物なんだろうと放置して終わりだ。
しかし、それだけでは終わらなかった。
何と彼はその母親が見守っている間ずっとそのカップラーメンを食べ続けていた。みかねた母親が何度止めようとしても止まらない。それどころかペースは増す一方でね。
呆れた母親はしばらく彼を放っておくことにして、近所のスーパーに野菜を買いに行ったそうだ。カップラーメンだけでは身体に悪いと。
そこでふと思った。息子はあんなに痩せていただろうかと。
君は質量保存の法則を知っているかい?高校で習う範囲だ。聞いたことぐらいはあるだろう。
何かが生まれるにはそのためにエネルギーが必要だ。
では、君に聴こう。
そのカップラーメンは何でできていると思う?」
「ま、まさか」
「そうさ。君の栄養だ。」
男は興奮気味に続ける。
「でも悲しいかな。ラーメンへの変換には多少のロスが生じる。そのロスが今君が痩せ細っている原因だ」
言われてハッとした。
元々そんなに太っている体質ではなかったが、それでもおかしい。ズボンがそのままにしてしまっていてはずれ落ちそうなほどに、ズボンが緩んでしまっていた。
「安心したまえ、ズボンはベルトで固定させよう。君、ズボンを上げてやってくれ。」
違う、そうじゃない。
答えようとするが麺が邪魔してうまく言葉が出ない。
「とまぁ、今回のこの怪異に関してはこんなところか。」
そういうと男は声を切った。
その後僕は食べ物の中で餓死した。
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