無骨な剣士様とモラハラ婚約者から逃げだそうと思います

まめだ

文字の大きさ
1 / 7

楽園

しおりを挟む


 
────

 ドンドンドンドン……!

 絶えず叩かれる扉の音をオーケストラの演奏代わりにして、閉じこもった教会の中でふたり、壁を背にして寄り添うように座っていた。

「……大丈夫か」

 彼が紡ぐ言葉をひとつも聞き逃さないように、意識を彼に集中させる。

「ええ」

 あなたは? とは聞き返さなかった。
 しばらくしてから言った。

「私たちの前世は、私たちよりも悪い人だったのかしら」

 返事は無い。代わりに、すぅすぅと寝息のような呼吸音が小さく聞こえてくる。

 眠りについた彼の頭を、自分の肩に寄りかからせる。短く整えられた髪を撫でると、見た目に反してふわりとした手触りがした。

 教会の中を見回してみると、酷く荒れていて、落ちたキリストの像が恨めしく私を見つめている。床に敷かれていたらしい石のタイルは、下から突き上げるように繁殖した雑草に持ち上げられていた。

 高い位置に取り付けられたステンドグラスは、白く変色しひび割れている。陽の光が差し込むと映し出される、さほど美しくない模様。

 ぐらん、と彼の頭が私の肩を滑り落ちて項垂れた。大きな彼の身体を引き摺るようにして寝かせると、私も隣に寝そべった。

 抜け落ちた天井のすき間から、立ちこめた灰色の雲が見える。今にも雨粒が落ちてきそうで目を閉じた。

 瞼の裏に浮かぶのは、幸せそうな目で幼い私を見つめる両親の顔だった。
 
 目立つのが苦手な私は、家の中でこじんまりとしたパーティーを希望した。

 張り切った父親は毎年食べきれないくらいの料理を作ってくれて、母親はその年の私のためにドレスをこしらえてくれた。

 誕生日ケーキのろうそくを吹き消すときには、「お父さんとお母さんのような夫婦になれますように」と願った。

 ───そんな昔のことを思い出しているうちにぼんやりと眠くなってきた。

 彼の手をくぐるようにすると、今度は私の頭を肩に乗せた。お腹に手を回すと、そっと目を閉じる。

 閉じながら、彼の身体の向こうに蹴り開けられる教会の扉が見えた。

 扉が開くと同時に、海の上を通ってきた水気の孕んだ風が吹き抜けていくような気がした。

「剣士も女もここにいたぞ!」 

 私たちを祝福するみたいに駆け寄ってくる人々の足が踏み鳴らされるたびに、ガチャンガチャンと音が響いた。

 離れ離れにならないように彼の身体をぎゅっときつく抱きしめると、ふたりの輪郭がぼんやりとしてくる。

 輪郭と一緒に私の意識も薄くなっていき、彼のなかに溶け出していく。

 さいごに感じたのは、耳のそばで鋭く鳴ったジャギンッという音だった。








しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

政略結婚の意味、理解してますか。

章槻雅希
ファンタジー
エスタファドル伯爵家の令嬢マグノリアは王命でオルガサン侯爵家嫡男ペルデルと結婚する。ダメな貴族の見本のようなオルガサン侯爵家立て直しが表向きの理由である。しかし、命を下した国王の狙いはオルガサン家の取り潰しだった。 マグノリアは仄かな恋心を封印し、政略結婚をする。裏のある結婚生活に楽しみを見出しながら。 全21話完結・予約投稿済み。 『小説家になろう』(以下、敬称略)・『アルファポリス』・『pixiv』・自サイトに重複投稿。

ちゃんと忠告をしましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。  アゼット様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ? ※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

もう好きと思えない? ならおしまいにしましょう。あ、一応言っておきますけど。後からやり直したいとか言っても……無駄ですからね?

四季
恋愛
もう好きと思えない? ならおしまいにしましょう。あ、一応言っておきますけど。後からやり直したいとか言っても……無駄ですからね?

あなたのことなんて、もうどうでもいいです

もるだ
恋愛
舞踏会でレオニーに突きつけられたのは婚約破棄だった。婚約者の相手にぶつかられて派手に転んだせいで、大騒ぎになったのに……。日々の業務を押しつけられ怒鳴りつけられいいように扱われていたレオニーは限界を迎える。そして、気がつくと魔法が使えるようになっていた。 元婚約者にこき使われていたレオニーは復讐を始める。

大好きなあなたが「嫌い」と言うから「私もです」と微笑みました。

桗梛葉 (たなは)
恋愛
私はずっと、貴方のことが好きなのです。 でも貴方は私を嫌っています。 だから、私は命を懸けて今日も嘘を吐くのです。 貴方が心置きなく私を嫌っていられるように。 貴方を「嫌い」なのだと告げるのです。

処理中です...