チートアイテム強奪! 残念美女が嗅ぎ付け、俺を守りにやってくる!

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教会と助っ人その1

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「アンソニー、助けてくれ」

 アレックスは教会のドアを開いた。ここはアンソニーがボランティアをしている教会である。今日は恵まれない子供を支援する日らしく、前庭からは子供の楽しげな声が聞こえてくる。アレックスは信仰の庇護を受けるため、友の助けを得るため、教会へ避難することを思いついたのだ。

「どうしたアレックス。おや、昨日の記者さんも一緒か。まあとりあえず入りな」

 アンソニーはアレックスとフィオナを事務室へ招き入れた。事務室はごく普通で、デスクや来客用のソファーがある。壁にボランティアのポスターや十字架が貼ってあるが、それがなければ教会とは気づけないだろう。

「助けてくれってことだが、なにがあったんだ? コーヒー飲むかい? フィオナさんもいかがかな」

 アンソニーはコーヒーを入れながら聞いた。

「コーヒーどころじゃない。マジやばいんだって。昨日のパーティーで銃をぶっ放されたんだよ」

「は? 銃? なんで?」

「そこから先は私が話そう」

 アレックスのバックパックからライオンの毛皮が飛び出した。ヘラクレスである。ヘラクレスはソファーの上に背もたれの上によじ上ると、辺りを見回して安全を確認し、アンソニーへ向き直った。

「うわああああああ、アレックスの入場衣装が口をきいてる。なんだ、なんなんだこれは。いったいなんどうしたんだ」

「落ち着いて聞け。私は――」

 ヘラクレスは諭すように語り掛ける。自分が神話の道具であり、身に着けると怪力が備わること。悪党に神話の道具を悪用されないよう破壊または回収すること。

 そして昨日のパーティーで起こったことと、街中を走って逃げてきたことも。

「っていうことは『これ』はお前らのことだな」

 アンソニーは新聞の一面を示した。そこには『ニューヨークにライオン男が出現』との見出しがあり、昨夜の逃走劇について書かれている。といってもアレックスの姿をとらえた写真はなく、めくれ上がった道路や玉突き事故にライオン男が関わっているとの目撃証言があるだけだ。

「そうだ。こうやって完璧に逃げ切った。なのにどういうわけか俺たちの居所が筒抜けだったんだ」

「その理由は『これ』だろうな」

 アンソニーは新聞をめくった。そこには「タイタンコーポレーションが新技術発表」と書いてある。昨日、CEOであるオーフェンが新技術を発表した。革新的なものらしく、大々的に取り上げられており、記事は詳細なものとなっている。

「なあアンソニー、これ、要するにどういうこと?」

 アレックスは文字でびっしりの紙面を一瞥だけし、読むのをあきらめた。

 問いかけられたアンソニーは慣れた様子で答える。彼はNWEに所属するレスラーでありアレックスの友でもある。難しい話や文章を嫌うアレックスに説明するのは慣れたものだ。

「簡単に言うとだな。防犯カメラやライブカメラに映った瞬間、あいつらに居場所を知られる。コンビニでも病院でも劇場でも、どこのカメラでもだ。オービスやバス、飛行場や鉄道駅なんかも含まれてるみたいだな。徹底してるぜ」

「オーマイガー。それじゃあ俺たちは逃げ場なんてないじゃないか」

「その通り。お前ら教会へ逃げてきて正解だぜ」

「今時防犯カメラをつけてないのは教会ぐらいだからなあ」アレックスは肩をすくめた。「ここ以外に逃げていたら……、また居場所を突き止められて襲われてた。今頃ハチの巣だ」

「いいや、お前らの居場所はとっくに知れてる。道路や近隣の店にもカメラがついているからな。俺が正解と言ったのは、いくら悪党でも教会には強襲してこないからさ」

 そんなまさかと言って笑うアレックスを尻目に、アンソニーは窓のブラインドを上げた。左右に首を振って辺りを見回すと、何か見つけたらしい。アレックスのほうへ振り返り、窓の外を親指で指し示した。

「お前らを追ってるのはあいつらだろ?」

 冗談きついぜ。笑いとばすアレックスは窓の外を見るなり凍り付いた。門の横に、パーティー会場にいた男が二人立っている。体格がよくていかめしい顔つきをした、明らかに一般人ではない奴らだ。やつらは隠れようともしない。ワンボックスカーによしかかって仁王立ちしており、アレックスと目が合うと、ニヤリと笑って手招きしてくる。明らかな挑発行為で、付きまとって攻撃するという危険な意思表示だ。

 しかしアレックスは
「あいつ、盛り上げ方をわかってるな。プロレスラーとして才能あるよ」
 とつぶやくのだった。

「何バカなこと言ってんの。教会から動けなくなったじゃない。これからどうすんのよ」
 フィオナがアレックスをにらんだ。

「おいおい怒るなよ。ジョークじゃないか。それにだな、これからについては完璧なプランがある。夜になれば星の光が出て、ヘラクレスの力が使える。そうしたら見張りをぶっ飛ばして、オーフェンの元へ乗り込む。心配する必要なんてない」

「ほう。素晴らしいプランだな。して、乗り込む先はどこなのだ」

 ヘラクレスが疑問を投げかけた。彼は人間ではない。ライオンの毛皮だ。事務室の机に置かれているので置物にしか見えないが、えらい神様が乗り移っている。

「それはだな……、えっと。どこだろ」

「ここよ」

 フィオナが新聞を手に取った。

「昨日オーフェンがやった発表会、場所はタイタンコーポレーションの研究所だったみたい。オーフェンはしばらく研究所にとどまって進捗を確認すると書いてあるわ」

「グッド! それで研究所はどこにあるんだ?」

「ニューヨーク州の東部、ハドソンバレーよ。日が落ちたらバスに乗っていきましょ」

「オーケーだ。……っと、日が落ちるまで時間があるな」

 アレックスは手空きになった。手持無沙汰にトレーニングを始める。ダンベルもトレーニングマシンもないので、普段やらない腕立て伏せを始めた。はじめは両手を地につけてやっていたが、それでは負荷が足りない。片手での腕立てにしてみると、いい感じだ。それなりに良い負荷がかかって、40回くらいやると上腕二頭筋が喜んできた。思わず力が入り、フン、フンという声が漏れでてくる。

「ちょっと。静かにしてよね」

 フィオナに言われ、アレックスは腕立て伏せを止めた。彼女は何やら熱心に新聞を読み、手帳に書き込んでいる。研究所襲撃の情報収集のようだが、アレックスはついに何もやることがなくなってしまった。

「俺はこれからボランティアに行ってくる。子供たちと一緒に遊ぶんだが、おまえもどうだ?」

 アンソニーはアレックスを誘った。窓から見える庭では、子供たちがはしゃぎまわっている。

 アレックスがどうしたものかなあと考えていると、事務室のドアが勢いよく開いた。

「アンソニー兄ちゃん、こんな部屋に閉じこもって何してるんだよ。外は天気がいいし、早く来いよな」

 ちびっこの群れが事務室に乱入するなり、アンソニーに飛びついた。彼らは遊び盛りで元気がいっぱいの年頃だ。あるものはアンソニーの腕にぶら下がり、またあるものは勢いつけて腹に飛び込んでいく。アンソニーはプロレスラーらしく彼らを力強く受け止めた。

 そして少年期というのは好奇心が旺盛でもある。一人の少年が目ざとくヘラクレスを見つけ、叫び声をあげる。

「あああああ、こんなところにライオンがあるぞ」

 デスクの上に載っていたヘラクレスはたちまち子供たちに囲まれた。子供にとっては格好のおもちゃである。顔をもみくちゃにし、振り回し、さんざんにヘラクレスを楽しんだ。たてがみを口に含む子供までいた。

「やめんか」

 たまらずにライオンが上げたうなり声を、子供たちは聞き逃さなかった。しかし彼らはライオンの意図するところとは外れ、さらに面白がった。

「すごいや、しゃべったぞ」
「いったいどうやってしゃべったんだ」
「誰かがスイッチを押したんだ」
「僕も押したい! 僕に渡せよ」
「……けどスイッチを押して『やめんか』なんてしゃべるかなあ?」

 子供たちはヘラクレスをおもちゃと思い込み、引っ張りあい取り合いをはじめた。一部勘のいい子はいぶかり、ヘラクレスに疑いの目を向ける。

「そうだろう、すごいだろう。これは腹話術というんだ。ライオンが話しているように思えたろうが、実際に話したのはあそこのお兄さんだよ」

 アンソニーは不穏を気取った。子供からヘラクレスを取り上げると、アレックスへ放って投げる。

 アレックスがヘラクレスを受け取とると同時に、子供たちの無邪気な視線が突き刺さる。期待に満ちた目だ。

 満場の期待を受け、アレックスにむらむらとやる気が沸き起こった。腹話術のふりをして目立つチャンスである。そのついでにプロレスの良さも教えてやろう。実演も交えて、だ。そうすればちびっこファンを獲得だし、将来、彼らの中からレスラーになるものも出てくるに違いない。だとすれば屋内じゃ狭い。

「よしよし。お前たちに一流の腹話術というものを見せてやろう。ここでやるのは狭いから、全員庭に行きな」

 アレックスが言うと、子供たちは我先にと外へ駆けて行った。ヘラクレスはといえば、やれやれという感じで鼻息を大きく吐き出している。意外だ。

「お? 文句言わずに手伝ってくれるのか?」

「子供は守り育てるものであるからにして、遊び相手になることも時には必要である。あまり気は乗らんが、こうなった以上道化を演ずる他あるまい」

「へえ。お前結構いいところあるじゃんか。今初めて神様っぽいと思ったよ」

「お前という奴は……。私を何だと思っているのだ」

「でかい猫」

「やれやれ、私はいつでも神そのものだと言ってあるだろう。全く、子供というのは手がかかるな。特に図体ばかりでかくて頭が悪いと特に」

「そうそう、子供ってのは遠慮なしに騒ぎまくるからな。俺が小さかった頃は……、って、『図体ばかりでかくて頭の悪いやつ』ってのは、まさか俺のことか?」

「そうは言っておらぬ。しかし心当たるなら改めるべきだな。図体ばかりでかいアレックスよ」

「てめえこのやろ」

 アレックスがつかみかかると、ヘラクレスもアレックスの顔に巻き付いて応戦する。

 やれやれ、付き合ってられねえぜ。アンソニーは横目でため息をついた。放っておいて先に庭へ行くべく、ドアを開けると、

「お兄さん、僕にもライオンを触らせてください」

「もちろんいいけど、俺の言うことを聞いてなかったのか? 外へ行ってからな」

 アレックスに足元から声がかかった。どうやらドアを出てすぐのところで一人子供が待っていたようだ。聞こえる声にアレックスが視線を下げると、その子は車いすに乗っていた。足には分厚い毛布が掛かっており、ピクリとも動かない。足が不自由なのだ。

「その子にも毛皮を触らせてやってくれ。不幸な事故で足が不自由になって以来、どうしても出遅れてしまう。そのせいでいつも我慢ばかりで、さっきも毛皮に触れていなかった。俺はな、それでもぐれないこの子のために何かしたくてボランティアを始めたんだ」

「いいとも」

 アンソニーに言われて争いをやめ、アレックスはヘラクレスを手渡した。

「ありがとうお兄さん」

 受け取った子はやんちゃ坊主とは違った。ヘラクレスを大切そうに受け取り、頭を優しい手つきで撫でた。彼の表情はとても明るい。何の罪もなく自らの境遇を恨むでもない、純真な表情だ。

 アレックスの胸が痛んだ。こんないい子が歩けないなんて悲しすぎる。この子に何かしてやりたい。足を治すことなんてできっこないが、俺に何かできることはないのか。

「よおし、じゃあ外に行くぞ。しっかり車椅子につかまりな」

 アレックスは車椅子をもつと、頭の上まで抱え上げた。

 子供は突然視線が高くなり、小さく驚いた声を上げた。しかしアレックスが
「高いところって気持ちいいだろ」
 と声をかけると表情が明るくなり、ヘラクレスをしっかりと握りしめたまま、小さくはしゃいで見せた。
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