4 / 11
手料理
しおりを挟む大きく膨らんだスーパーのレジ袋を抱えてても、足どりは軽い。
彼と出会って一週間。
今日は名案を思いついた。
いつも仕事で遅い彼のために、手料理を作ってあげようと。
うきうきしながら、彼のマンションまでの道のりを歩く。
道の脇に咲いた小さな黄色い花を一輪摘んだ。
夕焼けもきれい。
私の弾んだ心が空に映ってるみたい。
合鍵で彼の部屋へ入ると、買ってきた食材を冷蔵庫に入れた。
キッチンの棚を確かめると、主な調理道具は揃ってる。
問題なく料理できそう。
でも、まずは掃除からかな。
男の人のひとり暮らしって、どうしてこんなに散らかるんだろ?
そう思いながらも、掃除するのも楽しい。
「あっ」
本棚の上のデジタルフォトフレームに元カノの写真を発見。
今は私のカレシだと分かってても、やっぱり嫉妬しちゃう。
元カノの写真を全部削除して、代わりに私の写真をいっぱい入れた。
他にも元カノの痕跡のあるものは全部捨ててしまおう。
「よぉし、おそうじ完了!」
ひとりで大げさに敬礼のポーズをとってみたりして。
1LDKの部屋が、入ってきた時とは見違えるほど片付いた。
手をきれいに洗って、持ってきたエプロンをつけると、いよいよ晩ご飯に取り掛かる。
料理は得意。
彼のことを想いながら手際よく調理していると、なんだか新婚さんみたいな気分になって、鼻歌がかってに出てきちゃう。
それに合わせるように、包丁の音もリズミカルに響く。
彼は歳に似合わず、昔ながらの和食が大好き。
だんだんとダシのいい香りが部屋じゅうに広がっていく。
今、私は恥ずかしいほどの笑顔になっているんだろう。
人に見られたらと思うと、ちょっと頰が赤らむ。
好きな人のためにご飯を作るって、こんなに楽しいんだね。
おそろいのかわいい食器も用意してきた。
テーブルの上にふたり分の晩ご飯を綺麗に並べる。
最後に、摘んできた花を小瓶に挿し、中央に置いた。
「うん、我ながら上出来」
その時、玄関を開ける音がした。
計算通り、ちょうどいいタイミングで彼が帰ってきたみたい。
「おかえりー」
私は恥ずかしいくらいに、うきうきしながら出迎えた。
彼はすごく驚いた表情で、私とテーブルの上に並んだ料理を交互に見てる。
「今日はタカトのためにご飯を作ってみたんだよ。玄米ご飯に、焼き魚と根菜の煮物、それに、ほうれん草のおひたしとナスのお味噌汁。全部タカトの大好物だよね?」
彼はまだ部屋の入り口で固まったように立ってる。
「そんなに驚かせちゃったかな?」
私は首をかしげて微笑む。
そしてやっと彼が口を開いた。
「き、きみは……誰?」
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる