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第一章

第二十話

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 学校に行けば確実にイジメが待っている。

 だから登校するのは嫌ではあったが、女装して外出することには何ら抵抗なく、むしろ、街のショーウインドウに映る自分の姿には惚れ惚れしていたので、けっこう楽しんでいた。

 学校に行っても、イジメの時間は限られている。日中は先生がいるので、表立ったものはなく、放課後くらいだ。

 勉強はさして面白いとは思わなかったが、授業を聞いている時間はイジメのことを気にしなくて良かったので、逆に集中できた。

 こんな感じで、嫌だけど楽しい小学校生活であった。友達はいなかったが、家族だけで十分だと本気で思っていたので、寂しさを感じることはなかった。

 ひとりの時間が学校にはあるというポジティブ思考であった。今から考えれば心理的には防衛本能が働いていたのかもしれない。

 場面は次の日の放課後に移っていた。

 前日と同じように回りをクラスメイトに囲まれながら、土俵の中央にはオレがいる。明らかにイジメであるが、オレの眼は死んではいない。

 クラスメイトはいつもと同じく、オレの女装を批判、誹謗、中傷し続けている。だが昨日とは様子が違う。

 それぞれが手に何かを持っている。カッター、彫刻刀、先を鋭く尖らせた鉛筆、芯を伸ばしたシャープペン、金づち、バット、教師用三角定規など。

 いずれも頭上に大きく振り上げている。

 向かう先は机ではなくオレ。

 いずれも授業で使用するものではあるが、すでに道具ではなく、『凶器』と定義するのが正しい。

 全員がオレの頭、からだを狙っているのは明らか。

 クラスメイトは狂気を伴って、凶器を振り降ろす。『ビューン』という轟音が発せられた。

 危うし、オレ!その瞬間。

「やめて~!」
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