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第一章

第五十二話

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『コッ、コッ、コッ、コッ』。ヒール音が静寂を破る。これは20代後半が発生させる重低音だ。


「こら、失礼なことを言うでない。」


「お、鬼だ、鬼がいる!」
 オレは恐怖のあまり硬直してしまった。オレの双眸に映ったのは紛れもない金色の鬼。白衣を着ている。ん?白衣じゃない。『金衣』だ。


 肩には鷲の人形のような装飾がある。しかも頭上には白輪をしっかりと浮かべている。鬼なんだから人間のカテゴリーからはすでに逸脱している。


「我は保健委員だ。そこにいる美村万步(みむらまほ)と同じ務めをしている。」


 よく見ると、黄金の般若面を被っている女子がそこにいた。靴はローファーではなく、ハイヒールだ。そんなの許されるのか?


 それと学園アイドルまっほについて、本人がすでに接頭語を外しているので表記を改めて『万步』とする。


「我は神。ゆえに規制など受けぬ。これくらいは当たり前である。」


 確かに、一般の生徒では般若面を装着できまい。そもそも『金衣』着てるし。手強そうな相手だ。


 でもオレ、闘いに来たんじゃない。


「保健委員ならこの腹痛を早く直してくれよ。」


 神はオレをじっと見つめている。
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